お役立ちコラム
CSA社労士雑記 ~長時間労働について考えてみよう(3)~
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36協定を締結しておけば、残業は何時間してもよいのか。
仮にそうであるとしたら、
“24時間働けますか”
ということにならないか。
そんな疑問も出てきそうですが、
現行の制度では残念ながら、
“そのように解釈をされてしまってもおかしくない”
状態にあると考えられます。
というのも、
- 36協定における、延長時間の限度基準については、“限度基準告知”によって一定の限度時間の基準はあるが、法律で定めがあるわけではない
- 臨時的に限度時間を超えて労働させることが出来る特別な事情がある場合の限度時間の取り決め(特別条項といいます)には、上限時間がない
からです。
つまり、法律で規制をかけることができていないので、
悪い言い方をすれば、
“36協定をうまく利用すればいくらでも残業をさせることが出来る”
といったことになってしまうわけですね。
これは問題です。
個人的な意見でありますが、
“法律の規制力はかなり脆弱である”と言えるでしょう。
結果、
長時間労働が一要因となる病気に罹患する、
命を落としてしまう、
といった悲しい事件につながっていると思うのです。
ただ、国の方でも何もしていないわけではなく、
このほど、働き方改革の一環として、
- 限度時間の基準に法定上限が設けられる
- 特別条項にも限度時間を設ける
- 勤務間インターバル
- 年次有給休暇の一定日数の取得
などの改正が入ることとなりました。
(平成31年4月施行予定)
抜本的な対策になっているか否かは別として、
大きな改正でありますし、会社は対策を迫られることとなります。
この機会に、今後の働き方をどのようにマネジメントしていくのか、
自分の会社の協定書の状況がどのようになっているのか
確認をしておくことがよいでしょう。
+++++
さて、これまで長々と法律上での時間規制についてお話をしてまいりましたが、
最後に、もう一つの観点からお話をしなければなりません。
健康障害と長時間労働に対する関係についてです。
長時間労働はなぜ問題か。
“少子化につながる”“日本の経済力が弱くなる”
など、問題はさまざまですが、
人事労務の観点から見れば、
“人の命に直結する問題であるから”、
ですね。
“長時間労働=過重労働”というわけではありませんが、
脳・心臓疾患の労災認定基準では、
業務の過重性を評価する負荷要因として、労働時間が最も重要と判断されていますし、
大きな一要因であることに間違いはありません。
事故や過労性の疾病、精神疾患の原因ともなり、
“自ら命を絶つ”
“脳・心臓疾患を誘発する”
といった致命的な事態にもつながります。
企業側では“安全配慮義務違反”とならないためにも、
労働時間の管理、規制は適正なものが求められることとなります。
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※安全配慮義務は、労働契約法において、労働契約における付随的な義務として当然に使用者が義務を負うことが明記されております。
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では、具体的に、どの程度働くと、健康障害が生じてしまうのか。
40時間の残業で限界なのか、それとも80時間残業しても大丈夫なのか。
例えば、ひと月40時間の残業であるとした場合、
1日あたり、2時間程度の残業となります。
9時から18時までの所定勤務であれば、
毎日20時まで働くと、ひと月40時間くらいになりますね。
ひと月80時間であれば、その倍ですから、毎日22時まで残業です。
疲労の蓄積度合いは人ごとに違うので、その判断は迷うところではありますが、
“脳血管疾患及び虚血性心疾患等の労災認定基準”
によれば、
・月45時間以内の残業 → 疾病と業務の関連性は弱いと評価
おおむね45時間を超えて時間外労働が長くなると、徐々に関連性は強まり
・月2~6ヶ月の平均で80時間超の残業 → 業務との関連性は強いと評価
・月100時間以上の残業 → 業務との関連性は強いと評価
とされております。
つまり、常態として、毎日22時までお仕事をされている方は、
命の危険が出てくるということになりますね。
夜遅くまで頑張っている皆さんは大丈夫でしょうか。
また、2011年に公表された
“心理的負荷による精神障害の労災認定基準”
によれば、
- 連続した2カ月間に、ひと月あたり、概ね120時間以上の時間外労働を行い、その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった
- 連続した3か月間に、ひと月あたり概ね100時間以上の時間外労働を行い、その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった
といった場合には、強度の心的負荷として評価され、
長時間労働と精神的な疾患にも密接な関係があるとされております。
繁忙な時期において“毎日終電で帰宅”といった場合には、
ひと月で120時間程度の残業時間となることは考えられることです。
会社側の時間管理はもとより、労働者の側でも、
健康障害における労働時間の目安はきちんと頭に入れておいた方がよいでしょう。
+++++
過労が原因で病気になってしまったら、
きちんと治療をしたとしても、全快とはならないかもしれません。
その傷跡は肉体的にも精神的にも残ることがあると思います。
何らかの影響が体に残ってしまったら、
以前と同じように、全力で働くことができなくなってしまうかもしれません。
最終的に影響を受けるのは自分ですから、自分の働き方、働く時間について、
少し立ち止まって考えてみることも大切だと思うのです。
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執筆者:立山
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