お役立ちコラム
CSA社労士雑記 ~正しい賃金の話をしよう(2)~
前回のお話で、少しだけ触れましたが、
“賃金支払い5原則”というルールがあります。
賃金は、 “通貨” で “直接労働者” に “その全額” を
毎月 “一回以上” 、“一定の期日” を定めて支払わなければならない。
この原則を守っていない場合は、労基法の罰則規定が適用されることとなります。
例えば、毎月の給与を商品券等で支払うことは“原則として”できないですし、
2カ月に一回支払う、といったことも認められません。
自由気ままな支払われ方をされてしまうと、
健康で文化的な最低限度の生活を営む権利すら、危ういこととなりかねない。
労働の対価としての報酬を、
正確に・誠実に受け取ることが、生活の生命線であることを考えれば、
法律で規制をかけなければならないのは当然のことなのでしょう。
でも、法律があるから、だけでは少し足りないですよね。
やはり、きちんと知り、理解しなければ。
ということで、もう少し詳細に、5原則のお話です。
1. 通貨払の原則
要するに、きちんとお金で賃金を支払いなさい、ということです。
たとえば、“会社の商品を給与の代わりとして支払う”とした場合、労働者にとっては、自分の労働の対価が正しく支払われているのか、価格が不明瞭であるためわかりません。
換価に適さず、労働者にとっては不利益となり得るため、労基法では規制をかけていると考えられます。
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通貨以外での支払いが全くNGというわけではありません。
労働組合のある職場では、会社と労働組合が労働条件を合意して書面で取り交わす方法があります。
“労働協>”といいます。
この取り決めが行われていれば、通貨以外で支払うことが可能となるわけです。
例えば、通勤定期券をそのまま支給するような場合は“現物給与”・・・・ですね。
通貨ではありません。
なので、定期券をそのまま従業員に渡している場合は、
労働協約の締結が必要ということになります。
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2. 直接払いの原則
会社から本人に直接支払わなければならない、ということ。
例えば、
会社→部門長→従業員
といった流れで、給与を支給していたらどうでしょうか。
部門長にお金を抜かれてしまうことも考えられます。
前時代的な話にはなりますが、中間搾取や横取り防止を目的としています。
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給与計算をしていると、給与の振込先を2つに分けて、一方を奥さんの口座、とか、母親の口座などを指定されることもあります。
仕送りの手間を省くということなのでしょうが、
これは直接払いの原則に反しますから、違反ということになります。
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3. 全額払いの原則
毎月もらう給与明細を注意深く見てみましょう。
例えば、社宅費、生命保険料といった項目等で、
給与から差し引かれていることはありませんでしょうか。
これは“原則NG”です。
法律で認められているもの以外を、会社の勝手な判断で差し引くことは出来ません。
法律で差し引くことができるものは、
所得税の源泉徴収や社会保険料の控除など、法律に定めがあるものとなります。
一般的には、健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、所得税、住民税などであり、
この範囲であれば、問題はありません。
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賃金を一部差し引いて支払うことは、原則できませんが、
“労使協定”を締結して、その基準で差し引く限りは認められます。
労働基準法第24条の定めから、24協定(にいよんきょうてい)と呼ばれたりもします。
労基署への届け出が必要ありませんから、
36協定のように注目される協定ではないものですが、
こちらも大切な労使間の取り決めですね。
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4. 毎月1回以上払いの原則
月に1回以上、給与支給日を設ける必要があるということです。
なぜそのようなことに規制があるのかと言えば、
例えば入社してから、3か月後にまとめて初任給が出る、なんてことになってしまったら、その3か月間はどうなりますでしょうか。
生活できません。
つまり、賃金の支払い間隔が空きすぎることによって、生活が不安定になることを防止することを目的としています。
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年俸制の場合でも、毎月一回以上の支払いが必要です。
1,200万円の年棒であれば、案分すれば、ひと月100万円となりますが、実は、ここの部分は案分する必要はありません。
例えば、120万円の月もあれば、50万円の月もある、といった運用で大丈夫ということになります。
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5. 一定期日の支払い原則
当たり前のように、毎月同じ日に給与が振り込まれますが、この運用は一定期日の支払いの原則に則っているからなのです。
毎月25日が給与支給日の会社は、この基準があるから、必ず毎月25日払なのですね。
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因みに、給与支給日が祝祭日の場合、多くの会社では、その前営業日に支給されると思いますが、こちらは、民法第142条の定めによります。
同条の定めでは、繰り下げもできることとなっているので、祝祭日直後の営業日に支給でも問題はありません。
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今回はここまで
次回「CSA社労士雑記~正しい賃金の話をしよう(3)~」へ続きます
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執筆者:立山
(c)123RF
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