お役立ちコラム
CSA社労士雑記 ~正しい賃金の話をしよう(1)~

そもそも、賃金の支払われ方に、間違った方法があるのか。
給与は毎月、きちんと一定期日に正しく振り込まれてくるわけで、
通常、“正しい”だとか“誤っている”だとかの疑念は出てこないのかもしれません。
でも、賃金の支払いにはきちんとルールがあります。
ということは、ルール違反をしている可能性もあるということ。
例えば、このようなことはどうでしょうか。
毎月支払われている給与は、「労働者に直接支払われなければならない」
労働基準法第24条に定められている賃金支払い5原則のうちのひとつですが、
ここで一つ気になることが出てきます。
現在、われわれサラリーマンの給与の大半は、
会社から本人へ銀行振込で支払われている。
これは「直接支払う」ということになるのか?
銀行という第三者を介しているわけですから、
「直接」の部分が少し気になりませんか?
労働基準法が施行されたのは、昭和22年。
終戦直後の時期であり、まだ銀行振込という概念がなく???
労働基準法にとっては“想定外の事態”と個人的には解釈しています。
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※私の父親の時代では、“総務部から直接封筒で現金を受け取っていた”ということが一般的でした。当時、当たり前のように行っていた給与支給日のやり取りは、実は労働基準法に忠実だった姿、ということになりますね。
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仮に、「直接」の部分が労働基準法に抵触すると判断されてしまえば、
同法第24条違反となり、
“30万円以下の罰金”
に処せられることとなってしまいます。
どうすればよいのか。
仕方がないから、「全従業員に現金手渡し」
でしょうか。
個人的には、現金手渡しの方がいいのですが、
なかなか現実的ではありませんよね。
ですから、労働基準法では
法律違反とならないように、後付けで逃げ道(施行規則)を設けています。
※“後付けで設けた”という点は、個人的推察です。
"使用者は、労働者の同意を得た場合には、賃金の支払いについて、口座振込等(銀行、その他の金融機関に対する当該労働者の預金若しくは貯金への振込、又は、金融商品取引業者に対する当該労働者の預り金への払い込み)の方法により行うことが出来る"
※労働基準法施行規則7条の2第1項
つまり、“労働者の同意を得たら、銀行振込OK”、という決まりを作ったということですね。
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※施行規則は法律ではありません。
法律で想定しきれなかった場合や曖昧さを補う場合など、法律をうまく機能させるために、各省庁の大臣が発する命令が施行規則(省令)です。法律ではありませんが、法律から委任を受けているので、法律と同等の効果を有します。
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でも、まだこれだけでは足りない。
というのも、
同意をとるという部分あいまいで、
どのような手順で、どのような確認を経ていればよいのか、
口頭でよいのか、書面が必要なのか。
“同意した覚えがないのに、なぜ勝手に銀行振込しているのか”
という労働者がでてきてもおかしくはないということですね。
そこで今度は行政通達で、
”労働者の意思に基づくものである限り、その形式は問わない“
※H10.9.10基発529
といった補完が行われました。
こちらも、通達が発せられた経緯は個人的な推察です。
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※行政通達も法律ではありません。
例えば、法律に記載されていることに対して、“その解釈はこうしなさい”と各役所などに指示をする、行政機関の内部文書です。内部文書なので、理論上は国民を拘束する効力はないということになります。
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平成10年に出た通達なので、比較的新しい判断なのでしょうか。
といった具合に、
賃金の支払い方のほんの一部分を少し切り出しただけでも、
なかなか奥が深いお話ができるわけです。
一見、当たり前のように支払われていて、何の疑いもなく振り込まれている給与。
毎月支給される給与の計算は、不備がないことは当然であり、自動的に支払われるもの。
そんな認識を持っている方がいたとすれば、これからお話をさせていただく内容は、なかなか面白いものであると思います。
給与計算に紐付く法律や法律から求められる運用ルール、給与計算結果の検証方法等について、これから少しお話をしていきたいと思います。
(CSA社労士雑記 ~正しい賃金の話をしよう(2)~に続く)
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執筆者:立山
(c)123RF
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