お役立ちコラム

年末調整 ~後編~

 11月に入り、年末調整の時期がやってきました。平成29年の税制改正を受け、平成30年からは配偶者控除等申告書が新たに配布されます。

 本コラムでは年末調整について3回(前編・中編・後編)にわけて年末調整についてお伝えしていきます。後編の今回のテーマは「保険料控除申告書」「住宅借入金等特別控除申告書」についてです。


 

 

 前回のコラムでは扶養控除等異動申告書と配偶者控除等申告書について説明致しましたが、今回は年末調整時に控除を受ける場合に提出が必要となる「保険料控除等申告書」と「住宅借入金等特別控除申告書」について説明していきます。

 

 

1. 保険料控除申告書

 

 保険料控除申告書では、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除の4つを申告することができます。以下にそれぞれの内容及び添付書類について記載していきます。

 

1-1.社会保険料控除

 納税者が自己又は自己と生計を一にする配偶者やその他の親族の負担すべき社会保険料を支払った場合には、その支払った金額について所得控除を受けることができます。これを社会保険料控除といいます。

 控除できる金額は、その年に実際に支払った金額又は給与や公的年金から差し引かれた金額の全額です。

 社会保険料控除の対象となる健康保険や年金は、以下のものが主なものとしてあげられます。

  • 健康保険、国民年金、厚生年金保険及び船員保険の保険料
  • 国民健康保険の保険料又は国民健康保険税
  • 介護保険法の規定による介護保険料
  • 雇用保険の被保険者として負担する労働保険料
  • 国民年金基金の加入員として負担する掛金
  • 厚生年金基金の加入員として負担する掛金
  • 国家公務員共済組合法、地方公務員等共済組合法、私立学校教職員共済法、恩給法等の規定による掛金、納付金

 給与所得者の場合、源泉所得税や住民税のように、社会保険料も毎月の給与や賞与から天引きされることで、社会保険料控除がなされています。こちらは保険料控除申告書で申告する必要はなく、年末調整で自動的に社会保険料控除として計算されます。

 天引きされている社会保険料だけでなく、給料の手取りから支払われた社会保険料も社会保険料控除の対象となります。また、納税者本人のほかに納税者本人と生計を一にする配偶者やその他の親族が負担すべき社会保険料を納税者が支払った場合にも社会保険控除とすることができます。具体例としてはお子様の年金を親が代わりに支払った場合などがあげられます。

 国民年金の保険料及び国民年金基金の掛金に係る社会保険料控除を申告する場合は、その保険料又は掛金の金額を証する書類を、添付または提示する必要があります。国民健康保険料について申告する場合には、添付書類不要です。

 

1-2.小規模企業共済等掛金控除

 小規模企業共済等掛金控除は、納税者が小規模企業共済法に規定する共済契約の掛金、確定拠出年金法に規定する個人型年金の加入者掛金及び心身障害者扶養共済制度の掛金を支払った場合に受けられる所得控除です。具体的には以下の通りです。

(1)小規模企業共済法の規定によって独立行政法人中小企業基盤整備機構と結んだ共済契約の掛金(ただし、旧第二種共済契約の掛金はこの控除ではなく生命保険料控除の対象となります。)

(2)確定拠出年金法に規定する企業型年金加入者掛金又は個人型年金加入者掛金

(3)地方公共団体が実施する、いわゆる心身障害者扶養共済制度の掛金(この共済制度とは、地方公共団体の条例で精神又は身体に障害がある者を扶養する者を加入者として、その加入者が地方公共団体に掛金を納付し、当該地方公共団体が心身障害者の扶養のための給付金を定期に支給することを定めている制度のうち一定の要件を備えているものをいいます。)
 この控除を受ける場合は、確定申告書の小規模企業共済等掛金控除の欄に記入するほか、支払った掛金の証明書を確定申告書に添付するか提示することが必要になります。なお、掛金が給与天引きである場合には、年末調整で自動的に計算されるため申告書に記載する必要はありません。

 

1-3.生命保険料控除

 生命保険料控除は、納税者本人や親族を保険金の受取人とする、生命保険の保険料を支払ったときに、一定の金額の所得控除を受けることができる制度です。

生命保険料控除の対象となるのは、生命保険料と個人年金保険料、平成24年度から介護保険料を加えた3つで、それぞれの控除額を計算し、その合計額(上限12万円)が 控除できるものです。

 生命保険料と個人年金保険料については、平成23年12月31日以前に締結した保険契約か平成24年1月1日以後に締結した保険契約かで取り扱いが異なります。証明書に記載されている新旧を確認の上、新旧それぞれの計算式で控除額を計算します(計算にあたり端数が発生した場合には切上げ)。なお、支払った生命保険料や年金保険料に配当金や割戻金が発生する場合、配当金や割戻金を差し引いた額について控除できることになっています。

 生命保険料控除を受ける場合には、旧一般生命保険料で9,000円以下のものや、勤務先を対象とする団体保険である場合を除いて、保険会社が発行する証明書の原本が必要となります。

 

1-4.地震保険料控除

 地震保険料控除は、納税者が特定の損害保険契約等に係る地震等損害部分の保険料や掛金を支払った場合には、一定の金額の所得控除を受けることができる制度です。

 地震保険料控除の対象となるのは、自己若しくは自己と生計を一にする配偶者その他の親族が所有している家屋で常時その居住の用に供するもの又はこれらの者の有する生活用動産を保険や共済の目的とする契約で、かつ、地震、噴火又は津波を原因とする火災、損壊等による損害をてん補する保険金や共済金が支払われるものになります。

 また、平成18年の税制改正で、平成19年分から損害保険料控除が廃止されましたが、経過措置として以下の要件を満たす一定の長期損害保険契約等に係る損害保険料については、地震保険料控除の対象とする、地震保険料控除額に加算しても良いことになっております。

(1)平成18年12月31日までに締結した契約(保険期間又は共済期間の始期が平成19年1月1日以後のものは除く)

(2)満期返戻金等のあるもので保険期間又は共済期間が10年以上の契約

(3)平成19年1月1日以後にその損害保険契約等の変更をしていないもの

※注意:一の損害保険契約等又は一の長期損害保険契約等に基づき、地震保険料及び旧長期損害保険料の両方を支払っている場合には、納税者の選択により地震保険料又は旧長期損害保険料のいずれか一方の控除を受けることとなります。

 地震保険料控除を受ける場合には証明書原本が必要になります。

 

 

2. 住宅借入金等特別控除申告書

 

 住宅借入金等特別控除とは、個人が住宅ローン等を利用して、マイホームの新築、取得又は増改築等をし、平成33年(2021年)12月31日までに自己の居住の用に供した場合で一定の要件を満たすときにおいて、その取得等に係る住宅ローン等の年末残高の合計額等を基として計算した金額を、居住の用に供した年分以後の各年分の所得税額から控除するものです。今まで記載してきた扶養控除等異動申告書・配偶者控除等申告書・保険料控除申告書は税率をかける前の所得控除であったのに対し(本人の手取りは所得控除額×税率が変化)、住宅借入金等特別控除は税額控除(算出された金額がそのまま本人の手取りとなる)となり、インパクトが大きいものです。

 住宅購入初年度は年末調整に含めることができず確定申告をする必要がありますが、確定申告をした年分の翌年以降の年分については年末調整で この特別控除の適用を受けることができます。

 住宅借入金等特別控除の適用を受けることができるのは、以下の通りです。

(1)新築又は取得の日から6か月以内に居住の用に供し、適用を受ける各年の12月31日まで引き続いて住んでいる

(2)合計所得金額が3千万円以下

(3)床面積が50平方メートル以上かつ床面積の2分の1以上を居住の用に供する

(4)10年以上にわたり分割して返済する一定の借入金あり

(5)前後2年間で他の特例を受けていない

 年末調整で住宅借入金等特別控除を受ける場合には、1年目の確定申告後に受け取る住宅借入金等特別控除申告書及び銀行から発行される残高証明書を提出する必要があります。通常は住宅借入金等特別控除申告書の流れの通り記載すれば問題ありませんが、連帯債務や借換の場合は別途計算をする必要がありますのでご注意下さい。

 

 実際は控除を受けられるような状態であったとしても、年末調整で提出する申告書に記載をしないと、本来受けられるはずの控除を受けられず、申告していれば還付された所得税も戻って来なくなります。漏れや誤りをなくすためにも、必要に応じて人事担当者に確認の上、正しく記載していただければと思います。

 

参照:国税庁ホームページ

関連ページ:

給与計算アウトソーシング
年末調整~前編~(お役立ちコラム)
年末調整~中編~(お役立ちコラム)

 

執筆者:中谷

(c)123RF

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