お役立ちコラム
金銭債権を対象とした取引に係る消費税の考え方
1.はじめに
有価証券や金銭債権を対象とした取引に係る消費税は、課税売上割合の計算上複雑になっています。これらを本業として取り扱っていない会社で売却等が発生した際に、課税売上割合の計算を間違えてしまうケースが多いようです。
そこで、有価証券や金銭債権を対象とした取引が消費税の観点からどういった区分が必要で、消費税の納税額にどう影響するかを本コラムでまとめました。
2.用語の定義(有価証券等)
本コラムで取り扱う範囲は、正確には以下のものです(以下有価証券等)。
(1) 金融商品取引法第二条第一項(定義)に規定する有価証券(抜粋)
・国債証券、地方債証券、社債券
・株式、新株予約権、投資信託
(2) 消費税法施行令第九条に規定する有価証券に類するもの(抜粋)
・合名会社、合資会社又は合同会社の社員の持分
・協同組合等の組合員又は会員の持分その他法人の出資者の持分
・貸付金、預金、売掛金その他の金銭債権
3. 有価証券等の譲渡に係る消費税の区分
上記で列挙した有価証券や有価証券に類するものを譲渡した場合は、消費税法上非課税とされています 。(ただし、ゴルフ会員権の譲渡は除かれています。)
4.課税売上割合の計算
課税売上割合 = 課税期間中の課税売上高(税抜き) ÷ 課税期間中の総売上高(税抜き)
有価証券を譲渡した際の譲渡対価の消費税区分は非課税になりますが、課税売上割合の計算上他の非課税とは別の計算方法となります。
有価証券等の譲渡対価以外の非課税はその対価の全額を分母(総売上高)に算入しますが、有価証券等の譲渡対価の非課税はその対価の5%相当額のみを分母(総売上高)に算入します 。(ただし、自社で行った資産の譲渡等の対価に係る売掛金等を他の会社に譲渡した際は、課税売上割合の計算式上分母・分子いずれにも含まないこととされています。 )
これは、有価証券等の流動性が高く、トレーダー等が売買を繰り返した際に課税売上割合が著しく低くなってしまうことに配慮したものです。
会計ソフトにおいても消費税区分が「非課税(有価証券譲渡以外)」と「非課税(有価証券譲渡)」に分かれているケースが多く、納税額の計算を行うために区別して記帳することが出来ます。有価証券等の譲渡対価の非課税を通常の非課税として計算してしまうと、仕入税額控除額が減り、納税額が多く算出されてしまうため注意しましょう。(自社で行った資産の譲渡等の対価に係る売掛金等の譲渡対価には、「対象外」コードを付しておくとよいでしょう)
5.具体例
(1)自社の営業債権をファクタリング会社へ売却した場合
- 自社の製品を販売し、売上を計上した
売掛金 (対象外) |
110円 | / |
売上 (課税) |
100円 |
/ | 仮受消費税 | 10円 |
- 売掛債権をファクタリング会社へ譲渡し、資金回収を行った
預金 (対象外) |
98円 | / |
売掛金(※1) (対象外) |
110円 |
割引料(※2) (非課税仕入) |
11円 | / |
(※1)自社で行った資産の譲渡等の対価に係る売掛金等を他の会社に譲渡した際は、課税売上割合の計算に含めないこととなっています。
(※2)金銭債権の譲り受けの際に債権者から徴収する割引料、保証料又は手数料は、その名目の如何にかかわらず、金銭債権の譲受対価として非課税となります。(国税庁質疑応答事例-消費税-金銭債権の買取り等に対する課税関係)
(2)他社から譲り受けた売掛金を譲渡した場合(再ファクタリング)
- 他社から売掛債権を譲り受けた
売掛金 (対象外) |
99円 | / |
預金 (対象外) |
99円 |
- 譲り受けた売掛債権をファクタリング会社へ譲渡し、資金回収を行った
預金 (対象外) |
90円 | / |
売掛金 (対象外) |
99円 |
割引料 (非課税仕入) |
9円 | / | ||
債権売却収入 (対象外) |
90円 | / |
債権売却収入(※3) (有価証券譲渡非課税売上) |
90円 |
(※3)90×5%=4円を課税売上割合の計算上の分母(総売上高)に算入するために、売却勘定等を用いて有価証券譲渡の非課税売上を認識させましょう。(消費税法施行令第四十八条第五項)
(3)他社から譲り受けた貸付金を回収し、差益があった場合
- 他社から貸付金(額面110円)を譲り受けた
貸付金 (非課税仕入) |
99円 | / |
預金 (対象外) |
99円 |
- 譲り受けた貸付金を額面で回収した
預金 (対象外) |
110円 | / |
貸付金 (対象外) |
99円 |
/ |
受取利息 (非課税売上(※4)) |
11円 |
(※4)金銭債権の買取又は立替払に係る差益は利子の性質となり、非課税となります。(消費税法基本通達6-3-1)
執筆者:西山
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