お役立ちコラム
IFRSの登場と日本基準との違い
はじめに
今回の経理・会計・税務BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)のコラムは、IFRSの登場と日本基準との違いについてです。
IFRSとは、世界的に利用されることを目的に国際会計基準審議会によって設定される会計基準の相称の事を言います。
その登場から随分と時間が経過し、日本においては、日本基準を保持しながらIFRSとの差異を縮小することによってIFRSと同様の会計基準を採用しようとするコンバージェンスというアプローチを進めてきました。
今回はその中で残る両者の違いについて簡単に見ていきます。
IFRSの登場
1.世界130ヵ国以上で導入実績
IFRSは世界130ヵ国以上で導入されています。ただし世界の経済大国であるアメリカは独自の会計ルールを持っており、IFRSを適用していません。
日本でも日本基準とIFRSの差異を解消しようという動きを進めていましたが、その過程において日本ではIFRSの強制適用はされておらず任意適用とされています。
任意適用というのは全ての上場企業がIFRSを適用する必要は無く、以下の要件を満たす会社の内IFRSを適用したいと希望する会社はIFRS適用が可能という方法です。
IFRSを任意適用する企業を増やしたいという意向のもと要件が緩和されて、現在は次の要件を満たした場合にIFRSを適用することが可能です。
また日本におけるIFRSの任意適用はあくまでも連結財務諸表のみに認められており、個別財務諸表は引き続き日本基準に基づいて作成する必要があります。
任意適用が可能な要件は次の通りです。
➀有価証券報告書において連結財務諸表の適正性を確保するための特段の取組みに係る記載を行っていること
②IFRSに関する十分な知識を有する役員又は使用人を置いており、当該基準に基づいて連結財務諸表を適正に作成することが出来る体制を整えていること
任意適用要件 |
連結財務諸表 |
個別財務諸表 |
要件を満たす |
IFRS or日本基準 |
日本基準 |
要件を満たさない |
日本基準 |
日本基準 |
以前は上場企業であるということも要件のひとつでしたが、緩和によって撤廃されました。そのためIPOを目指す会社も、上場前からIFRSを適用することが可能となりました。
2020年1月現在約220社がIFRSの任意適用を選択しています。
IFRSと日本の財務会計はかなり近しいものになっておりますが、いくつか違いがあります。
ここでは「原則主義」と「のれんの償却」という2つの点についてその違いを見ていきます。
2.原則主義
IFRSは「原則主義(プリンシプルベース)」と言われています。これに対して日本基準は「細則主義(ルールベース)」と言われています。
IFRSには詳細なガイダンスというものが無いのと、判断基準の目安としての数値基準が無いことが特徴です。
基本的なスタンスとして原理・原則を示すので、企業がそれに基づいて判断すべきという立ち位置です。そのためIFRSは原則主義を採用していると言われています。
あまりに詳細にルールを制定してしまうとその要件を満たさないようにするスキーム(手法)を考えたりする企業が出てきてしまって、類似の経済取引があったとしても会計処理が異なってしまうおそれがあるためにルールベースにしていません。
日本の今までの会計慣行では、ルール通りに処理することに慣れていましたが、IFRSを適用する場合、原則主義になるので企業の判断が重要になっていきます。
3.「のれんの償却」の考え方
IFRSと日本基準の違いで大きな影響がでるのが「のれん」の処理です。
「のれん」とは、M&Aで企業を買収した際に買収価額がその会社の純資産を上回った金額のことをいいます。
純資産とは会社の財産と債務の差額といえます。
例えば過去から蓄積された会社の財産が80億円で債務が30億円の場合には純資産は50億円となりますが、この会社を70億円で買収したとします。
買収価額の70億円から純資産50億円を差し引いた20億円が「のれん」となります。
この「のれん」を毎年の費用として認識するかどうかで、日本基準とIFRSが異なっています。
日本基準の場合は、20年以内の期間で費用化を図っていきます。これは「償却」という手続きを通じて費用化をしていきます。
仮に20年で償却をする場合は、1年間で1億円の費用が発生します。
これに対してIFRSでは「のれん償却」というものは行いません。
つまり費用化がされません。
日本基準では費用化がされ、IFRSでは費用化がされなければM&Aが盛んな会社の場合IFRSを選択しようと考えるかもしれません。
ただ、費用化に関しては全くしないというわけではありません。
のれんの価値が著しく下落した際には、減損処理という一気に費用化する処理を行わなければなりません。
減損処理とは収益性が著しく低下した際に、帳簿価額を切り下げる処理をいいます。
先ほどの例の20億円ののれんのケースで言えば、買収して3年後に買収した会社の価値が大幅に下落して、のれんの価値が5億円しかないと判定された場合には、その時点で15億円を一気に費用化する必要があります。
「のれんの償却」がないというメリットを活かす意図でIFRSを選択した企業でも、買収先の収益性が悪化した場合は損失が一気に計上されるリスクがあります。
おわりに
今回はIFRSの登場から日本基準との違いなどについて簡単にまとめさせていただきました。
IFRSの導入企業は年々増加してきており、従来の日本基準との大きな違いを知ることで今後の経済ニュースを見る時のヒントになるかと思います。
この度は経理・会計・税務BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)のコラムをお読みいただきありがとうございます。
次回の経理・会計・税務コラムでまたお会いしましょう。
執筆者:笠井
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