お役立ちコラム

交際費と福利厚生費の違い

はじめに


交際費、福利厚生費どちらに該当するのかが争われた事例は数多くあります。

そこで今回はどちらに該当するのかの判断基準を解説していきます。

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Ⅰ.交際費課税制度



(1)制度の趣旨と改正の変遷


交際費は昭和293月、租税特別措置法として成立しました。

制度導入の背景には、大法人の濫費を抑制し、資本の蓄積を促すという意図がありました。

また、創設時は、支出名義の如何を問わず事業に関連のある者等に対する支出や慰安の為の支出も規制対象とされていました。

その後、幾多の変遷を経て、接待飲食費の優遇措置が採用されるなど一定の緩和措置はとられているものの、損金算入を無制限に認めると、法人の冗費・濫費を増大させるおそれがある為、一貫して交際費等の損金不算入措置がとられています。

(2)交際費の意義

①交際費の意義

「交際費等」とは租税特別措置法61条の46項において、「交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの」と定められています。

また、同項において「専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用」は交際費から除かれるとされています。

②交際費課税の三要件

萬有製薬事件(東京高判平成1599)以降、「交際費等」該当性の要件は、新たに三要件説が用いられるようになりました。

当該説において「交際費等」と判断する為には、「支出の相手方」が事業に関係ある者等である事「支出の目的」が事業関係者等との間の親睦の度を密にして取引関係の円滑な進行を図る事「支出の様態」が接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為である事、という三つの要件充足が必要とされています。

③「支出の相手方」の範囲

ここで、交際費課税の三要件説における「支出の相手方」に自社の役員及び従業員が含まれるか否かが問題となりますが、租税特別措置法61条の46項にある「慰安」はなぐさめ安ずることであり、社外の者を慰安するとは表現しずらく、自社の役員や従業員をその対象として予定するものと考えられます。

上記より「支出の相手方」には自社の従業員も含まれる事となりますが、①に記載の通り、租税特別措置法61条の46項において「専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用(福利厚生等)」は交際費から除かれる旨が定められています。

Ⅱ.交際費と除外規定の解釈



(1)創設的規定説

 慰安の為の支出はそもそも交際費等に該当するが、当該支出が「通常要する費用」であれば交際費等から除外されるとしています。

すなわち、法人が従業員に対して慰安を目的として支出したもののうち「通常要する費用」については、その全額の損金算入を認めても法人の冗費を抑制するなどの目的に反しないと捉えています。


(2)確認的規定説

福利厚生費は本質上、通常の程度を超えてもそもそも交際費等に含まれず、役員や一部の従業員に対する支出のみを交際費等とし、全従業員を対象とした慰安費用は福利厚生費として交際費等には該当しないと捉えます。

Ⅲ.判例の状況


(1)福岡地裁平成29年4月25日判決

同判決では、支出した費用が社会通念上福利厚生費と認められる範囲内であれば、制度趣旨に反せず、「通常要する費用」として交際費等には該当しないと判示されました。

(2)東京地裁平成21年2月5日判決

同判決は、「従業員の慰安行事の為に支出する費用は、本来は損金に算入されない交際費等に該当するものである事を前提とし、その費用が『通常要する費用』の範囲にある限りは、福利厚生費として法人が負担するのが相当であり、その全額につき損金算入を認めても法人の冗費を抑制するなどの目的に反しない。」と判示しています。

しかしこれに対しては,交際費は本来損金に算入されないものではなく、政策的に、本来は損金算入が当然なものを規制しているに過ぎないとの指摘がされていました。

Ⅳ.まとめ


(1)交際費課税における「支出の相手方」は、自社の役員や従業員をその対象として予定していると考えられます。

(2)交際費から除かれるもの(福利厚生等)は、学説や判例より以下の通りに解釈できると考えます。

①法人が従業員に対して慰安を目的として支出したもののうち、支出した費用が社会通念上福利厚生費と認められる範囲内である費用

②役員や一部の従業員に対する支出のみを交際費等とし、全従業員を対象とした慰安費用は福利厚生費

おわりに


企業の人材確保は今日において重要な課題であり、福利厚生行事を通して従業員の一体感や会社に対する忠誠心を醸成することは必要な事であると思います。

また、働き方の多様化が進み、福利厚生行事も多様化してくる事が考えられるため、交際費等該当性判断については、判断基準を踏まえた、より総合的な判断が必要になってくると考えます。

執筆者:黒川

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