お役立ちコラム

賃上げ促進税制の改正について

はじめに


 令和6年度税制改正大綱にて賃金上昇が物価高に追いついていない国民の負担を緩和し、物価上昇を十分に超える持続的な賃上げが行われる経済の実現を目指す等の観点から賃上げ促進税制の強化が行われました。

この中で特に大きな改正点として5年間の繰越控除制度というものがあげられます。本コラムでは従来の賃上げ促進税制と今回の改正賃上げ促進税制を確認しつつ、5年間の繰越控除についても見ていきます。

※なお賃上げ促進税制の改正に関するガイドブックが8月上旬を目途に掲載される予定ですが、本コラムは当該ガイドブック掲載前に執筆しております点予めご了承ください。

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これまの賃上げ促進税制



1.中小企業向け賃上げ促進税制の概要と適用要件


中小企業向け賃上げ促進税制は、中小企業者等が前年度より給与等を増加させた場合に、その増加額の一部を法人税等から税額控除出来る制度です。

令和4年4月1日~令和6331日までの期間内に開始する事業年度が対象となります。

雇用者給与等支給額が前年度と比べて1.5%以上増加した場合、控除対象雇用者給与等支給増加額の15%を法人税額等から控除出来ます。

➀中小企業者

 資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人等を指します。

ただし同一の大規模法人から2分の1以上の出資を受ける法人や、2以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受ける法人は対象外となります。

②給与等

 俸給・給与・賃金・歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与をいいます。

したがって非課税とされる給与所得者に対する通勤手当等についても原則的には給与等に含まれることとなります。

ただし退職金等給与所得とならないものについては原則として給与等に含まれません。

➂雇用者給与等支給額

 適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される全ての国内雇用者(パート、アルバイト、日雇い労働者を含むが使用人兼務役員を含む役員及び特殊関係者、個人事業主の特殊関係者は除く)に対する給与等の支給額をいいます。

ただし給与等に充てる為に他の者から支払を受ける金額がある場合には当該金額を控除します。

④控除対象雇用者給与等支給増加額

 適用年度の雇用者給与等支給額から前事業年度の雇用者給与等支給額を控除した金額をいいます。

ただし調整雇用者給与等支給増加額(適用年度の雇用安定助成金額を控除した雇用者給与等支給額から、前事業年度の雇用安定助成金を控除した前事業年度の雇用者給与等支給額を控除した金額)を上限とします。


2.中小企業向け賃上げ促進税制の上乗せ要件


適用要件を満たした企業について、雇用者給与等支給額が前年度と比べて2.5%以上増加した場合、税額控除率が15%上乗せされます。

また教育訓練費の額が前年度と比べて10%以上増加した場合、税額控除率が10%上乗せされます。

➀教育訓練費

 所得の金額の計算上損金の額に算入される、国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を習得させ、又は向上させるために支出する費用のうち一定のものをいいます。

具体的には、法人が教育訓練等を自ら行う場合の費用、他の者に委託して教育訓練等を行わせる場合の費用、他の者が行う教育訓練等に参加させる場合の費用等をいいます。

適用要件

税額控除

通常要件

雇用者給与等支給額が前年度と比べて1.5%以上増加

控除対象雇用者給与等支給増加額の15%を法人税額等から控除

上乗せ要件➀

雇用者給与等支給額が前年度と比べて2.5%以上増加

税額控除率を15%上乗せ

上乗せ要件②

教育訓練費の額が前年度と比べて10%以上増加

税額控除率を10%上乗せ

※控除率は最大40%となります


3.大企業向け賃上げ促進税制の概要と適用要件


賃上げや人材育成への投資を積極的に行う企業に対し、雇用者給与等支給額の前年度からの増加額の一定割合を法人税額等から控除する制度です。

令和4年4月1日~令和6331日までの期間内に開始する事業年度が対象となります。

継続雇用者給与等支給額が前事業年度より3%以上増えている事などを条件に控除対象雇用者給与等支給増加額の15%を法人税額等から控除します。

➀雇用者給与等支給額

 全ての国内雇用者(パート、アルバイト、日雇い労働者を含みますが、使用人兼務役員及び役員の特殊関係者は含みません)に対する給与等の支給額の合計額をいいます。

②給与等

 俸給・給料・賃金・歳費及び賞与並びに、これらの性質を有する給与をいいます。退職金など、給与所得とならないものについては、原則として給与等に該当しません。

➂継続雇用者給与等支給額

 継続雇用者(前事業年度及び適用事業年度の全月分の給与等の支給を受けた国内雇用者)に対する給与等の支給額の合計額をいいます。

④控除対象雇用者給与等支給増加額

 適用事業年度の雇用者給与等支給額から前事業年度の雇用者給与等支給額を控除した金額をいいます。


4.大企業向け賃上げ促進税制の上乗せ要件


 適用要件を満たした企業について、継続雇用者給与等支給額が前事業年度より4%以上増加した場合、税額控除率が10%上乗せされます。

また教育訓練費の額が前事業年度より20%以上増加した場合、税額控除率が5%上乗せされます。

➀教育訓練費

 国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を習得させ、又は向上させるために支出する費用の内一定のものをいいます。

適用要件

税額控除

通常要件

継続雇用者給与等支給額が、前事業年度より3%以上増えている

※資本金10億円以上かつ従業員数1,000人以上の企業は別途要件あり

控除対象雇用者給与等支給増加額の15%を法人税額等から控除

上乗せ要件➀

継続雇用者給与等支給額が4%以上増えている

税額控除率を10%上乗せ

上乗せ要件②

教育訓練費の額が前事業年度より20%以上増えている

税額控除率を5%上乗せ

※控除率は最大30%

賃上げ促進税制の改正



1.賃上げ促進税制の改正の概要


続いて令和6年度税制改正大綱に基づく改正された賃上げ促進税制を確認していきます。改正前は大企業向けと中小企業向けという分類がありましたが、改正後は大企業(全企業)向け、中堅企業向け、中小企業向けという分類になります。そして中小企業向けに関しては5年間の繰越控除制度が創設されています。これまで賃上げを実施していたとしても赤字等でそもそも納税が発生していなければ税額控除ができず、賃上げ促進税制の恩恵を受けられませんでした。この繰越制度の創設により将来発生する納税から控除することが出来るようになり、赤字の企業も今後賃上げ促進税制の恩恵を受けられる可能があります。なおこの改正された賃上げ促進税制の適用期間は令和641日から令和9331日までの間に開始する各事業年度となります。

➀大企業(全企業)向け

 青色申告書を提出する全企業又は個人事業主が適用対象

②中小企業向け

 青色申告書を提出する従業員数2,000人以下の企業又は個人事業主が適用対象

➂中小企業向け

 青色申告書を提出する中小企業者等(資本金1億円以下の企業又は個人事業主)が適用対象


2.適用要件と控除率


適用要件や控除率については企業分類ごとにまた段階的に定められています。具体的には下の表の通りとなります。

継続雇用者の給与等支給額(前年度比)

税額控除率

大企業

+3%

10%

+4%

15%

+5%

20%

+7%

25%

中堅企業

+3%

10%

+4%

25%

全雇用者の給与等支給額(前年度比)

税額控除率

中小企業

+1.5%

15%

+2.5%

30%

※中小企業の適用要件や税額控除率は従来のものと実質変わりません。


3.上乗せ要件


 改正された賃上げ促進税制についても上乗せ要件が存在します。一つは従来もあった教育訓練費の増加要件、もう一つは女性活躍支援・子育て支援をした企業の上乗せ要件となります。

➀教育訓練費の増加

 全企業向け及び中堅企業向けに関しては教育訓練費が前年度比+10%の場合に税額控除率が5%上乗せされます。

一方で中小業企向けについては教育訓練費が前年度比+5%の場合に税額控除率が10%上乗せされます。

ただし教育訓練費の上乗せ要件は、適用事業年度の教育訓練費の額が適用事業年度の全雇用者に対する給与等支給額の0.05%以上である場合に適用可能となるため注意が必要です。

②女性活躍支援・子育て支援

 厚生労働省の認定である(プラチナ)くるみんや(プラチナ)えるぼしを取得している場合に税額控除率が5%上乗せされます。

おわりに


 今回は賃上げ促進税制について現状の制度を確認しつつ今後改正される内容について確認をしていきました。

賃上げ促進税制は似たような用語が多くやや複雑ではありますが、5年間の繰越控除の新設など適用できる機会は増えてきていますので、その適用の可否について改めて検討を頂ければ幸いです。

執筆者:笠井

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