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繰延資産とは

 

繰延資産とは

 

繰延資産は、支出した「費用」で、その支出の効果が将来にわたって現れるものをいいます。支出した「費用」をいったん資産計上し、効果が及ぶ期間にわたって償却することで費用化を行います。※固定資産や棚卸資産等資産の取得に要した費用、前払費用に相当するものは対象から除かれます。

繰延資産には会計上の繰延資産と、税務上の繰延資産があります。上記の考え方は同じですが、範囲と償却方法、償却期間について異なっています。

 

 

会計上の繰延資産とは

 

【定義】

繰延資産ついて、「すでに代価の支払が完了し又は支払義務が確定し、これに対応する役務の提供を受けたにもかかわらず、その効果が将来にわたって発現するものと期待される費用」としています。

 

【範囲】

繰延資産の項目は、原則として下記の限定列挙された項目となります。

 

(1)株式交付費

株式募集のための広告費、金融機関の取扱手数料、証券会社の取扱手数料、目論見書・株券等の印刷費、変更登記の登録免許税、その他株式の交付等のために直接支出した費用。

 

(2)社債発行費等(新株予約権の発行に係る費用を含む。)

社債募集のための広告費、金融機関の取扱手数料、証券会社の取扱手数料、目論見書・社債券等の印刷費、社債の登記の登録免許税その他社債発行のため直接支出した費用。

 

(3)創立費

定款及び諸規則作成のための費用、株式募集その他のための広告費、目論見書・株券等の印刷費、創立事務所の賃借料、設立事務に使用する使用人の給料、金融機関の取扱手数料、証券会社の取扱手数料、創立総会に関する費用その他会社設立事務に関する必要な費用、発起人が受ける報酬で定款に記載して創立総会の承認を受けた金額並びに設立登記の登録免許税等。

 

(4)開業費

土地、建物等の賃借料、広告宣伝費、通信交通費、事務用消耗品費、支払利子、使用人の給料、保険料、電気・ガス・水道料等で、会社成立後営業開始時までに支出した開業準備のための費用。

 

(5)開発費

開発費とは、新技術又は新経営組織の採用、資源の開発、市場の開拓等のために支出した費用、生産能率の向上又は生産計画の変更等により、設備の大規模な配置替えを行った場合等の費用。

ただし、経常費の性格をもつものは開発費には含まれません。

 

【償却方法】

原則として、支出時に費用(営業外費用)として処理します。

繰延資産として計上した場合は、一定期間内のその効果の及ぶ期間によって償却することになります。

科目

繰延資産とした場合の償却方法

(1)株式交付費

株式交付のときから3年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法

(2)社債発行費等

社債の償還までの期間にわたり利息法により償却

また、継続適用を条件として、償却方法については定額法も採用することができる

(3)創立費

会社の成立のときから5年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法

(4)開業費

開業のときから5年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法

(5)開発費

支出のときから5年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法

 

税務上の繰延資産とは

 

【定義】

法人税法では、「法人が支出する費用のうち支出の効果がその支出日以後1年以上に及ぶもので法令で定めるもの」と定義しています。

 

【範囲】

会計上の繰延資産(上記(1)株式交付費、(2)社債発行費等、(3)創立費、(4)開業費、(5)開発費)に加え、税法独自の繰延資産と呼ばれる、下記(6)~(10)のものが入ります。

 

(6)自己が便益を受ける公共的施設又は共同的施設の設置又は改良のための費用

国等が行う公共的施設の設置等により著しく利益を受ける場合の一部負担金、協会・組合・商店街等の行う会館・共同展示場・アーケードなどの建設又は改良に要する費用の負担金など。

 

(7)資産を賃借し、又は使用するための費用

建物を賃借するために支出する権利金・更新料・敷金(返金されない部分)、立ち退き料や電子計算機・複写機等の機器の賃借に伴って支出する引取り運賃・関税・据え付け費など。

 

(8)役務の提供を受けるための費用

ノーハウの設定契約に際して支出する一時金又は頭金など。

 

(9)広告宣伝用資産の贈与のための費用

広告宣伝用の看板・ネオンサイン・どん帳・陳列棚、広告宣伝用自動車など。

 

(10)その他自己が便益を受けるための費用

出版権の設定の対価として支出した費用、同業者団体等に支出した加入金、職業運動選手等との専属契約をするための契約金、スキーのゲレンデ整備費用など。

※税法独自の繰延資産については、会計上の繰延資産ではないため、会計処理においては、繰延資産として処理されるのではなく、投資その他の資産の区分において長期前払費用として計上されることが多いです。

 

【償却方法】

会計上の繰延資産((1)株式交付費、(2)社債発行費等、(3)創立費、(4)開業費、(5)開発費)については随時償却となります。

税法独自の繰延資産は均等償却されます。償却期間は以下となります。

種類

区分

償却期間

(6)自己が便益を受ける公共的施設又は共同的施設の設置又は改良のための費用

 

公共的施設

負担者に専ら使用されるものである場合

その施設等の耐用年数の7/10相当年数

上記以外

その施設等の耐用年数の4/10相当年数

共同的施設

負担者等の共同の用に供されるものである場合

又は協会等の本来の用に供されるものである場合

(イ) 施設の建設又は改良部分の負担金・・・その施設の耐用年数の7/10相当年数
(ロ) 土地取得部分の負担金・・・45年

負担者の共同の用に供されるものであり、

かつ一般公衆の用にも供されるものである場合

5年

(その施設の耐用年数が5年未満の場合その耐用年数)

(7)資産を賃借し、又は使用するための費用

 

建物賃借に伴う権利金等

新築建物に対する権利金等でその額が賃借部分の建設費の大部分に相当するもの

その建物の耐用年数の7/10相当年数

 (1)以外の権利金等で、その明渡し時に借家権として転売できるもの

その建物の賃借後の見積残存耐用年数の7/10相当年数

(1)及び(2)以外の権利金等の場合

5年(賃借期間が5年未満の場合で契約更新時に再び権利金等を支払う場合はその賃借期間)

電子計算機その他の機器の賃借に伴う費用

その機器の耐用年数の7/10相当年数(その年数が賃借期間を超えるときは、その賃借期間)

(8)役務の提供を受けるための費用

 

ノーハウの頭金等

5年

(有効期間が5年未満である場合契約の更新時に再び一時金又は頭金の支払うときは、その有効期間の年数)

(9)広告宣伝用資産の贈与のための費用

 

広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用

その資産の耐用年数の7/10相当年数

(その年数が5年を超えるときは、5年)

(10)その他自己が便益を受けるための費用

 

出版権の設定の対価

存続期間(設定契約に存続期間の定めがない場合には、3年)

同業者団体等の加入金

5年

職業運動選手等の契約金等

契約期間(契約期間の定めがない場合には、3年)

スキー場のゲレンデ整備費用

12年

※償却期間については1年未満の端数は切り捨てます

※20万円未満の繰延資産に該当する費用を支出した場合は、損金経理の方法により、その金額を支出事業年度の損金とすることができます。

 

税務上、会計上の繰延資産は随時償却となっていますので、支出時に費用化してもいいですし、資産計上しておいて費用化したいときに費用とすることもできます。

税法独自の繰延資産は、その支出が繰延資産に該当するかどうか、判別しにくい場合もあります。誤りやすい科目として前払費用や寄付金などが挙げられますので、その違いも明確にしておくとよいでしょう。

 

 

前払費用との違い

 

前払費用とは、一定の契約にもとづき継続的な役務の提供を受けている場合において、すでに支出はしたが、まだ役務提供を受けていない部分に係るものをいいます。

これに対し、繰延資産はすでに対価の支払いは終了し、役務提供も受けているが、その支出の効果が将来に渡って現れるものをいいます。

 

 

寄付金との違い

 

国等に対する寄付金で、その寄付をした者がその寄付によって作られた設備を専属的に利用すること等、特別な経済的利益を受ける場合は、繰延資産に該当します。

これに対して、寄付をした者が特別な経済的利益を受けない場合は寄付金に該当します。

 

 

税法独自の繰延資産の具体例

 

以下で、税法独自の繰延資産に該当するもの具体例を幾つかあげてみましたので、こちらもご参考にしてみてください。

 

(1) 物件を賃借した場合に支払った礼金、敷金(返還されない部分)、更新料

資産を賃借し又は使用するための費用として繰延資産に該当するものと考えられます。償却期間は5年となります。ただし、賃借期間が5年未満で、契約の更新に際し再び更新料等の支払を要することが明らかな場合にはその賃借期間で償却することとなります。

※支払った礼金の金額が20万円未満の場合には、支払をした事業年度において損金として処理することができます。

 

(2) ホスティングサーバーの初期設定費用

資産を賃借し又は使用するための費用として繰延資産に該当するものと考えられます。この場合の償却期間は、サーバーの耐用年数の7/10に相当する年数(その年数が賃借期間を超える場合には、その賃借期間)となります。

※支払金額が20万円未満の場合には、支払をした事業年度において損金として処理することができます。

 

(3) フランチャイズの加盟金

役務の提供を受けるために支出する権利金その他の費用として繰延資産に該当するものと考えられます。償却期間は原則として5年で処理します。将来においてその加盟金が返還されない場合で、かつ5年以内に更新があり、その際に一時金や更新料等の支払いがある場合には、その契約期間内で償却します。

※支払金額が20万円未満の場合には、支払をした事業年度において損金として処理することができます。

 

(4) 会社の商品名等の入った資産を地方公共団体に贈与

贈与した資産が不特定多数の者の集まる場所で使用される場合は、寄付金には該当せず、広告宣伝用資産の贈与のための費用として、繰延資産に該当するものと考えられます。償却期間はその資産の耐用年数7/10に相当する年数(その年数が5年を超えるときは、5年)となります。

※支払金額が20万円未満の場合には、支払をした事業年度において損金として処理することができます。

 

参考文献:企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」企業会計基準委員会

関連ページ:

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執筆者:高木

写真提供:(c)123RF

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