お役立ちコラム

無形固定資産の概要とソフトウェアの管理

はじめに

企業が事業活動を行う上で、ソフトウェアは、インフラとして欠かせないものとなり、情報通信技術が著しく進化している昨今においては、どの業界においても必要不可欠な存在となっています。

そんなソフトウェアですが、会計処理については注意が必要です。

例えば、購入した場合には、取得価額や製作目的に応じて一括費用処理や無形固定資産として減価償却を通じて費用化する方法を選択する必要があり、自社が保有するソフトウェアに合わせた会計処理を行う必要があります。

今回は、無形固定資産であるソフトウェアについて、その範囲や製作目的等の管理方法についてまとめています。

ソフトウェアの管理方法

1.無形固定資産とソフトウェア

(1)無形固定資産とは


固定資産というと建物や器具備品といった有形で形のあるものがイメージされやすいですが、会社が保有する資産には有形のものに限られるわけではありません。

例えば、特許権や商標権等は、その権利を使用することで売上を生み出すことができる会社の資産とされます。

このような目には見えない資産は、建物などの有形固定資産とは区別して無形固定資産に分類され、いずれも固定資産として取り扱う必要があります。

なお、無形固定資産には特許権や商標権のほか、ソフトウェア、借地権等が代表的な資産として挙げられます。


(2)無形固定資産の減価償却の方法


無形固定資産は有形固定資産とは異なり、償却方法は定額法のみとなっています。

一方で有形固定資産のうち建物や建物付属設備、構築物については定額法により償却を行いますが、それ以外の資産については原則として定率法を用いて償却を行います。

なお、無形固定資産の中でも減価償却しない資産もあります。

例えば、土地の上に存する権利等が該当し、具体的には借地権や地上権、地役権等がそれにあたります。

これらは有形固定資産である土地が減価しないことから、同様に減価償却はされないこととされています。


(3)少額資産の取扱い


法人税法上、ソフトウェアについても有形固定資産同様に、少額の減価償却資産については別途取扱いが設けられています。


・一括償却資産

固定資産に該当し、取得価額が20万円未満であるものについては、3年間で均等償却することが認められています。


・少額減価償却資産

使用可能期間が1年未満または取得価額が10万円未満の場合には、その取得価額に相当する金額を損金経理したときは、その損金経理した金額は、損金の額に算入することができます。

なお、資本金が1億円以下の一定の中小法人等に関しては、取得価額が30万円未満の資産(同一事業年度で合計300万円まで)は、その取得価額に相当する金額を損金経理したときは、その損金経理した金額は、損金の額に算入することができます。


(4)ソフトウェアの範囲


ソフトウェアとは、コンピューターを機能させるように指令を組み合わせて表現したプログラム等のことをいい、その範囲は以下の通りとされていいます。

・コンピューターに一定の仕事を行わせるためのプログラム

・システム仕様書、フローチャート等の関連文書のプログラム

ソフトウェアを製作する場合には、先ずはその目的を明確にし、製作することで採算は取れるか等のシミュレーションを実施・分析することが必要となります。
その上でソフトウェアの製作実行に移ります。
ソフトウェアに関しては、製作目的の違いにより資産区分や会計処理が異なります。


(5)製作目的


ソフトウェアの会計処理は、製作目的によりその方法が異なるため、目的に応じて費用処理や固定資産計上と、完成後の処理方法が異なってきます。

そのため、製作の前段階でソフトウェアの製作目的を明確にしておくことは、ソフトウェアを保有するにあたり非常に重要なポイントになります。

ソフトウェアの製作目的には、以下のようなものがあります。

イ)販売目的のソフトウェア

・受注製作のソフトウェア

特定のユーザー向けにソフトウェアを製作し、個別に製作することを受託して製作するソフトウェアが該当します。

・市場販売目的のソフトウェア

不特定多数のユーザー向けにソフトウェアの製品マスターを製作し、これを複製して販売するパッケージ・ソフトウェアが該当します。

ロ)自社利用目的のソフトウェア自社の社内業務を効率的に行うことを目的として利用するための、ソフトウェアが該当します。


(6)研究開発のためのソフトウェア


研究とは、新しい知識の発見を目的とした計画的な調査及び探求をいいます。
また、開発とは、新しい製品・サービス、生産方法の計画等について、研究の成果やその他の知識を具体化することとされています。

研究開発費は、発生の段階で将来の収益の獲得が不明であり、また、その研究開発計画が進行して、将来の収益獲得の確率が高まったとしても、収益の獲得が確実であるとはいえないことから、発生した研究開発費を資産計上することは適切ではなく、全て発生時に費用処理することとされています。

そのため研究開発を目的とするソフトウェアの製作費は、研究開発費として費用処理されますが、研究開発目的以外のソフトウェアについても、その製作費のうち、研究開発に該当する部分については、研究開発費として費用処理を行います。


(7)製作目的による会計処理の違い


ソフトウェアの会計処理は、製作目的によって異なりますが、整理しますと以下の表の通りとなります。

なお、研究開発費を会計上で費用処理をした場合においても、税務上は無形固定資産として、ソフトウェアに該当することもあります。

この場合には、会計上と税務上で乖離が生じるため、税務申告書において一定の調整を行う必要が生じます。

2.残高管理

(1)ソフトウェアの残高管理

ソフトウェアの残高管理を行うために、一般的にはソフトウェアの管理台帳を作成します。

管理台帳には、番号、名称、種類、取得日、取得価額、数量、償却方法、耐用年数等を登録し、ソフトウェアの新規の購入、除却またはバージョンアップ等を行った際には、管理台帳を適宜更新することにより、現物と台帳を常に一致させることが可能となります。


(2)バージョンアップと資本的支出


・利便性を向上させる場合

販売目的や自社利用目的で製作されたソフトウェアの価値を高めるためのバージョンアップ(ソフトウェアの価値を高めるための支出であったり、残存期間の増加等の効果が期待できる支出等)で、新たな機能の追加や、利便性の向上等による支出に関しては、資本的支出として資産計上され、その金額を、バージョンアップを行ったソフトウェアの未償却残高に合算します。


・収益獲得に効果がある場合

自社利用目的のソフトウェアに対して、費用削減や新たな収益獲得に効果があるバージョンアップを行った場合には、そのバージョンアップのために発生した支出は資本的支出として資産計上を行います。


(3)ソフトウェアの除却


税務上、ソフトウェアの除却は以下のような場合に認められます。その場合において、ソフトウ ェア自体が有形の資産ではなく無形の資産であるため、除却したことを明らかに示す証拠を保存する必要があります。


・自社利用のソフトウェア

そのソフトウェアで処理を行っていたデータ処理の対象となる業務が廃止され、当該ソフトウェアを利用しなくたったことが明らかな場合、またはハードウェアやオペレーティング・システムの変更等により、他のソフトウェアを利用することで、従来使用していたソフトウェアを利用しなくなったことが明らかな場合等にその除却が認められます。


・販売目的のソフトウェア

新製品の出現やバージョンアップ等により、今後、販売を行わないことが社内稟議書や販売流通業者への通知文書等で明らかな場合にその除却が認められます。


(4)実地調査


ソフトウェアは、取得や除却等を管理台帳等において管理することになりますが、はなく、定期的

に実地調査を行い、利用状況等を確認し、管理台帳に適宜反映させる必要があります。


3.減価償却費管理


(1)減価償却費の計算


ソフトウェアは、企業会計上と税務上でその取扱いが異なっています。

企業会計上では、特定の研究開発の目的で開発されたソフトウェアに関しては、研究開発費目的の費用については一括費用処理がされ、それ以外については資産計上がされます。一方、税務上はいずれの場合も無形固定資産として処理され、その用途区分によって耐用年数が異なります。

そのため、企業会計上と税務上で処理方法が異なるため、計上される金額も異なり、企業会計上と税務上の資産管理を別々に管理する必要があります。


(2)ソフトウェアの償却方法


償却方法は定額法であり、償却額は以下の算式により計算します。



(3)減価償却費の計上方法


減価償却費の計上方法については、固定資産から直接減額する方法(直接控除法)のみとなり、

仕訳例は、以下の通りです。



おわりに

今回は、無形固定資産の概要とソフトウェアの管理についてお伝えしました。

無形固定資産は有形固定資産とは異なり、償却方法が定額法のみとなっていることや、無形固定資産であるソフトウェアを除却するにあたっては現物がないため、除却時点が適正であることを示す証拠書類を保存する等の特有の処理が発生します。

また、ソフトウェアは製作目的に応じた処理方法を行う必要があるため、導入を検討している場合には、先ずは製作目的を明確にし、適切な会計処理を実施するようにして下さい。

また企業会計上と税務上で処理が異なることがあり、その乖離は税務上の調整項目に該当しますので、併せて注意を払うように心掛けてください。

執筆者:菅谷

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