お役立ちコラム

年末調整の電子化 導入に向けて

 令和2年度の年末調整より、年末調整手続きの電子化が実施されることとなりました。年末調整手続の電子化とは、これまで手書き等で作成していた年末調整書類について、パソコンやスマホで作成し、印刷せずにデータのまま提出することです。

 年末調整といえば、担当者の方にとっては膨大な書類配布や回収、処理&チェックに追われ、非常に負担の大きい業務でした。これらの電子化により、その業務量を大きく削減できることが想定されます。それでは具体的なメリット、そして導入に向けての取り組みを解説していきます。

 これまでの年末調整手続は、保険会社等から証明書を書面(はがき等)で受け取り、勤務先へも書面にて提出していました。しかし、今回より、年末調整手続が電子化された場合は、次のような手順となります。

 

1.従業員は、保険会社等から控除証明書等を電子データで受領

2.従業員が、国税庁ホームページ等からダウンロードできる年末調整控除申告書作成用ソフトウェア(通称:年調ソフト)、もしくは民間の会社が提供するソフトウェアに、住所・氏名等の基礎項目を入力し、1で受領した電子データをインポートして年末調整申告書の電子データを作成

3.従業員が、2の年末調整申告書データ及び1の控除証明書等データを勤務先に提供

4.勤務先が、3で提供された電子データを給与システム等にインポートして年税額を計算

 

つまり、これまでは必要としていた書面の多くについて、データのみでのやり取りにて遂行できる作業フローが対応可能となりました。電子化を導入することにより、大きなメリットを享受できます。

 

≪従業員のメリット≫

 従業員は、これまでの手書きによる手続(年末調整申告書の記入、控除額の計算など)を省略でき、年末調整申告書の作成を簡素化できます。

 また、書面で提供を受けた控除証明書等を紛失した場合は、保険会社等に対し、再発行を依頼しなければなりませんでしたが、その手間も不要となります。

 

≪勤務先のメリット≫

 勤務先は、従業員が年調ソフトで作成した年末調整申告書データを利用することにより、控除額の検算が不要となります。また、控除証明書等データを利用した場合、添付書類等の確認に要する事務が削減されます。

 さらに、従業員が年末調整申告書作成用のソフトウェアを利用して控除申告書を作成するため、記載誤り等が減少し、従業員への問合せ事務も減少することが期待されます。

 加えて、書面による年末調整の場合の書類保管コストも削減することができます。

 

それでは年末調整手続の電子化へ向けた準備方法について、解説していきます。

 

【勤務先における準備】

1.電子化の実施方法の検討

 年末調整の電子化を実施するに当たり、従業員が使用する年末調整申告書作成用のソフトウェアについてどのソフトウェアを使用するか、電子化後の年末調整手続の事務手順をどうするかなどを検討します。

※ 従業員が提供する年末調整申告書データは、国税庁から提供する年調ソフトだけでなく、仕様公開を通じ同様の仕組みを取り込んだ民間のソフトウェアでも作成することができます。

2.従業員への周知

 従業員から年末調整申告書を電子データにより提供を受けるに当たり、法令上は事前に従業員から同意を得る必要はありません。しかし、電子化に当たっては、従業員においても、保険会社等から控除証明書等データを取得するための手続など、事前準備が必要となることから、電子化する際には従業員への早期の周知が必要となります。

 また、1で決定した、従業員が使用する年末調整申告書作成用のソフトウェアや事務手順について周知する必要があります。

3.給与システム等の改修等

 従業員から提供を受ける年末調整申告書データや控除証明書等データを、ご利用の給与システム等にインポートし、年税額等の計算を行うためのシステムの改修等を行います。

4.税務署への届出

 従業員から年末調整申告書に記載すべき事項を電子データにより提供を受けるためには、勤務先があらかじめ所轄税務署長に、「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を提出し、その承認を受ける必要があります。

これまでは多くの用紙や書式、書類を利用し、その管理コストが膨大だった年末調整、また計算自体も複雑だったため、作業にストレスを抱えていた人事担当の方も多かったと思われます。

電子化を導入することで、その作業効率性、労働生産性の向上に加え、精神的な負担の軽減も達成されるかと思われます。また新型コロナウイルスの影響もあり在宅勤務の推進が急速に進められる中、用紙の回収や配布を必要としない電子化は在宅勤務との相性も良く、その相乗効果も大きいでしょう。各社、ぜひその導入を進めていきたいところです。

 

参考文献:

国税庁ホームページ「年末調整手続きの電子化に関するパンフレットについて」

https://www.nta.go.jp/users/gensen/nenmatsu/nencho_pamph.htm

 

(執筆者:中西)

 

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