お役立ちコラム

外部開示業務

はじめに

公共的・社会的存在であると言われる今日の企業(特に大規模な公開会社)は、その活動の結果である損益計算を的確に実施し、その配分を適正に行う必要があります。

継続企業(ゴーイング・コンサーン)として成長・発展していくためには、株主・債権者のような資本提供者のみならず、企業に直接・間接に関与する様々な利害関係者に対して企業情報を適時に開示(ディスクロージャー)し、円滑なコミュニケーションを確保することが必要不可欠となっています。

また、企業にディスクロージャーを要請することは、企業の反社会的な行動を抑制ないし牽制するとともに、企業にその社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)を意識した行動を促すことにもつながります。

このように、昨今その重要性が高まっているディスクロージャーについて、本稿では、「証券取引所が求めるもの」「会社法上のもの」「自発的に行うもの」「金融商品取引法上のもの」、の4つに区分して解説します。

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外部開示業務

1.決算短信(証券取引所が求めるもの)



(1)決算短信とは


証券取引所上場会社は、証券取引所の求めに応じて決算短信と呼ばれる開示書類を作成し、開示しなければなりません。

決算短信は、証券取引所の自主規制に基づく開示媒体であり、その意味で証券取引所が求めるディスクロージャーは一般に自主開示として分類されます。

決算短信は、適時開示(タイムリー・ディスクロージャー)の要請に基づき、その一環として株主総会開催以前の決算発表の際に証券取引所に提出されるものです。

その様式及び内容は規定されており、したがって、自主開示といっても事実上の強制開示ともいえます。

その内容は、基本的には、大きく「サマリー情報」と「添付資料」に区分されます。

添付資料は、さらに、「経営成績等の概況」、「会計基準の選択に関する基本的な考え方」、「連結財務諸表及び主な注記」などに分けられます。

提出期限については明確に定められてはいないものの、東京証券取引所は、期末後45日以内での開示が適当で、30日以内での開示がより望ましく、50日以内に開示を行わない場合、理由および翌年以降の開示時期についての計画と見込みを開示する必要があるとしています。


(2)四半期決算短信


決算短信は、四半期ごとに、通期の決算短信よりも簡素化されたいわゆる四半期決算短信の作成も必要となります。

後述する四半期報告書よりも、可及的すみやかに有用な情報を投資者に伝達する速報としての意義があります。四半期決算の内容が定まった場合には、直ちにその内容を開示することが義務付けられていますが、この理由の一つとして、決算情報が固まっているにもかかわらず公表しないでいるとインサイダー取引が発生するリスクが高まることが挙げられます。

2.IR(自発的に行うもの)



(1)IRとは


IR(Investor Relations)とは、企業が株主や投資家に対し、投資判断に必要な企業情報を、適時、公平、継続して提供する活動のことをいい、企業が投資家向けに自発的に行う広報活動です。

法律や自主規制に基づいて要請されるディスクロージャーと異なり、任意開示に分類されます。

全米IR協会によれば、IRは「企業の財務活動とコミュニケーション活動とを結合して行われる戦略的かつ全社的なマーケティング活動であり、投資者に対して企業の業績やその将来性に関する正確な実態を提供するものである。また、IR 活動は、究極的には企業の資本コストを下げる効果をもつ」と定義されています。株主・投資者との緊密な双方向コミュニケーションを促進する「株式のマーケティング活動」ともいえましょう。


(2)具体例


具体的には、株主・投資家や証券アナリストに対する決算説明会、会社説明会、アニュアル・レポート、株主通信などがあります。


(3)目的


日本IR協議会によれば、一般的なIRの目的として、「企業・事業内容の理解促進」、「適正な株価の形成」、「株主・投資家との信頼関係の構築」、「企業の認知度向上」、「経営戦略・経営理念の伝達」、「長期保有の株主づくり」、「経営に有用な情報のフィードバック」、「企業ブランド価値の向上」が挙げられます。

3.会社法決算(会社法上のもの)



(1)会社法が要請する開示


会社法は、全ての会社に対して、事業年度ごとに計算書類等の作成を要求しています。株主に対して、受託責任の遂行状況を報告するもので、法定開示、すなわち会社法に基づく強制的なディスクロージャーです。

計算書類等とは、「計算書類」、「連結計算書類」、「事業報告」、「計算書類の附属明細書」および「事業報告の附属明細書」をいいます。このうち「事業報告」および「事業報告の附属明細書」が非財務情報で、それ以外は全て財務情報です。


(2)計算書類


計算書類は、「貸借対照表」、「損益計算書」、「株主資本等変動計算書」および「個別注記表」から構成され、個別注記表に記載が必要となる主な注記には、「継続企業の前提に関する注記」、「重要な会計方針に係る事項に関する注記」、「貸借対照表等に関する注記」、「損益計算書に関する注記」、「株主資本等変更計算書に関する注記」、「一株当たり情報に関する注記」、「重要な後発事象に関する注記」などがあります。

財務諸表と異なり、計算書類には、キャッシュ・フロー計算書が含まれません。


(3)事業報告


公開会社の事業報告の主な内容としては、「会社(企業集団)の現況に関する事項」、「会社の株式に関する事項」、「会社の新株予約権等に関する事項」、「会社役員に関する事項」、「会計監査人の状況」、「会社の体制及び方針」があります。

4.有価証券報告書(金融商品取引法上のもの)



(1)金融商品取引法の目的


金融商品取引法の目的は、その第1条に、次の通り規定されています。

「この法律は、企業内容等の開示の制度を整備するとともに、金融商品取引業を行う者に関し必要な事項を定め、金融商品取引所の適切な運営を確保すること等により、有価証券の発行及び金融商品等の取引等を公正にし、有価証券の流通を円滑にするほか、資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成等を図り、もつて国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資することを目的とする。」


(2)有価証券報告書とは


有価証券報告書は、金融商品取引法がその目的の達成手段の一つとして要請する法定開示であり、強制的なディスクロージャーの一つです。事業年度ごとに提出しなければなりません。

証券投資を行う投資者の投資判断に資するために、株券や債券などの有価証券を使って1億円以上の資金調達をする会社や、株式を証券取引所に上場、公開している会社に対して求められています。

その内容は、大きく第一部【企業情報】と第二部【提出会社の保証会社等の情報】に分けられます。

第一部はさらに、第1【企業の概況】、第2【事業の状況】、第3【設備の状況】、第4【提出会社の状況】、第5【経理の状況】、第6【提出会社の株式事務の概要】、第7【提出会社の参考情報】という構成となっています。このうち第5【経理の状況】には財務諸表が含まれます。

提出期限は、事業年度経過後3か月以内となっています。


(3)四半期報告書とは


四半期報告書は、有価証券報告書と同様に金融商品取引法が要請する法定開示です。

上場会社等は、事業年度が3か月を超える場合には、その事業年度を3か月ごとに区分した各期間(第4四半期を除く。)ごとに、提出しなければなりません。

その内容は、有価証券報告書と比較すると、かなり簡素化されています。

提出期限は、対象期間経過後45日以内となっています。


(4)内容の適正性を担保する規制


いくら開示したところでその開示内容に誤りがあれば、投資者をミスリードすることとなってしまいます。そこで、金融商品取引法には、開示内容の適正性を担保するための規制が含まれています。

例えば、財務諸表等の書類については公認会計士または監査法人による監査証明が必要とされています。さらに、開示書類の提出後に誤りが発覚した場合等には、訂正報告書の提出が求められます。

また、有価証券報告書や四半期報告書の記載内容に係る確認書の提出が要請され、代表者および最高財務責任者がそれらの書類の適正性を確認することが求められています。

虚偽記載があった場合の課徴金制度や罰則等も備えています。

執筆者:内山


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