お役立ちコラム

キャッシュ・フロー計算書作成時の落とし穴(消費税・建設仮勘定の扱いなど)

1.はじめに

 

キャッシュ・フロー計算書とは、財務諸表のうちの1つであり、企業の一会計期間におけるキャッシュ・フロー(収入および支出)の状況を、営業活動、投資活動、財務活動の3つに区分して表示する計算書です。

損益計算書における損益は発生主義によるため、現金収支とは必ずしも一致しません。

そのため、多額の利益が計上されていたとしても、そこに資金の裏付けが無ければ、資金がショートし、倒産することもあり得ます。キャッシュ・フロー計算書の作成目的は、損益計算書からは分からない、企業のお金の流れを示すことにあります。

 

キャッシュ・フロー計算書は、第3の財務諸表として企業社会に定着してきており、前述のような概要や役割については、広く知られています。

しかし、実際に作成するとなると、詳細なルール(会計基準や指針)に準拠する必要があり、見て理解することと作成実務との間には大きな溝があります。

そこで本稿では、キャッシュ・フロー計算書作成時につまずきやすい部分を中心に具体的なルールを説明します。

 

 

2.法人税等の表示区分

 

法人税等(住民税及び利益に関連する金額を課税標準とする事業税を含む。)に係るキャッシュ・フローは、「営業活動によるキャッシュ・フロー」の区分に「法人税等の支払額」として一括して記載します。

なお、事業税のうち付加価値割及び資本割並びに電気供給事業、ガス供給事業、生命保険事業及び損害保険事業に係る事業税は利益に関連する金額を課税標準としていないことから、これらの事業税の支払は、「営業活動によるキャッシュ・フロー」に含まれるキャッシュ・フローではあるが、「法人税等の支払額」に含めません。

 

 

3.利息及び配当金の表示区分

 

利息及び配当金の表示区分について次の二つの方法の選択適用が可能ですが、選択した方法は、毎期継続して適用しなければなりません。

 

(1)         受取利息、受取配当金及び支払利息は、「営業活動によるキャッシュ・フロー」の区分に記載し、支払配当金は「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分に記載する方法

(2)         受取利息及び受取配当金は、「投資活動によるキャッシュ・フロー」の区分に記載し、支払利息及び支払配当金は「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分に記載する方法

 

現金及び現金同等物の運用から生じる受取利息等は、他の受取利息等と区分して把握することが実務的に困難であるから、上記受取利息に含めることとし、負の現金同等物に関連して支出する支払利息も同様に上記支払利息に含めることとします。

なお、利息の受取額と支払額は、相殺せず総額で表示します。

 

 

4.外貨建の現金及び現金同等物に係る為替差損益

 

外貨建の現金及び現金同等物に係る為替差損益の額は、「現金及び現金同等物に係る換算差額」として表示します。

すなわち、外貨建の現金及び現金同等物の期中の為替相場の変動による円貨増減額は、現金及び現金同等物の増減額の調整項目である「現金及び現金同等物に係る換算差額」として区分表示することとなります。

 

 

5.消費税及び地方消費税の取り扱い

 

消費税及び地方消費税のキャッシュ・フロー計算書上の取り扱いは、以下のいずれの方法も認められると思われます。

 

(1)         課税対象取引に係るキャッシュ・フローを消費税等込みの金額で表示する方法

(2)         課税対象取引に係るキャッシュ・フローを消費税等抜きの金額で表示する方法

(3)         消費税等抜きの資産・負債の増加額もしくは減少額に、又は収益もしくは費用の額に、これらに関連する消費税込みの債権・債務の期中増減額を調整して、各表示区分の主要な取引ごとのキャッシュ・フローを表示する方法

 

採用した方法は、毎期継続して適用する必要があります。

 

また、消費税等の申告による納付又は還付に係るキャッシュ・フローは、課税取引に関連付けて区分することが実務的に困難なため、「法人税等の支払額」と同様に「営業キャッシュ・フロー」の区分に消費税等支払額(還付額)又は未払(未収)消費税等の増減額として記載することとなります。

 

 

6.建設仮勘定の取り扱い

 

有形固定資産の取得に伴う支払は、有形固定資産の完成、未完成にかかわらず、支出時に有形固定資産の取得による支出として投資活動の区分に記載します。

 

建設仮勘定を本勘定に振り替えた場合、キャッシュ・フローを伴わないため、有形固定資産の取得による支出の金額から建設仮勘定から振り替えられた金額を控除します。

 

無形固定資産の場合も、有形固定資産の取り扱いと同様に処理を行います。

 

固定資産の全ての引渡しを受けた期に一括して対応する消費税等を認識する方法の場合、建設仮勘定に消費税等が含まれていますので、建設仮勘定の増加額を有形固定資産の取得による支出とした場合、有形固定資産の取得による支出に消費税等が含まれることになります。消費税等の処理を投資活動の区分に消費税等が含まれない、課税対象取引に係るキャッシュ・フローを消費税等抜きの金額で表示する方法とする場合は、建設仮勘定の増加額から消費税等を控除する必要があります。

 

<参考>

連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針

 

執筆者:内山

 

 

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