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健康保険法が変わります

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「全世代型社会保障改革の方針について」(令和2年12月15日閣議決定)等を踏まえ、現役世代への給付が少なく、給付は高齢者中心、負担は現役世代中心というこれまでの社会保障の構造を見直し、全ての世代で広く安心を支えていく「全世代対応型の社 会保障制度」を構築するため、健康保険法が改正されました。

 

本コラムでは改正内容をまとめてご紹介致します。施行日順に記載致します。

 

令和4年1月1日~

 

(1)傷病手当金の支給期間の通算

(健康保険法、船員保険法)

傷病手当金について、出勤に伴い不支給となった期間がある場合、その分の期間を延長して支給を受けられるよう、支給期間の通算化を行える様になります。

 

ポイント

これまでの傷病手当金は支給開始日から1年6ヵ月を限度として、その期間内に出勤等で不支給だった日数があったとしても、当該日数分が延長されるのでは無く、1年6ヵ月を迎えると打ち切りとなっておりました。 しかしながら現場の声では、時代と共に疾病自体が変化し、療養の在り方も変わる中、例えばガン治療と就労の両立等、働きながら病気を克服する状況も増えつつあります。また共済組合は元来、通算するルールであるという事から、健康保険と共済組合とで差異が存在するままで良いのかという意見もあった様です。財源の問題や、管理上の問題は有るのかもしれませんが、疾病構造の変化と共に、傷病手当金制度も変化していく事は必要だと思われます。

 

(2)任意継続被保険者制度の見直し

(健康保険法、船員保険法)

 

任意継続被保険者の保険料の算定基礎の見直しや、被保険者からの申請による資格喪失を可能とする。

 

ポイント

現行法では、健康保険組合毎に、任意継続保険料の上限が定められており、在籍時の保険料が上限を超える場合には、上限額が適用され、任意継続保険料が決定されていました。在籍時には労使折半だった保険料が、任意継続になると全額自己負担になる為、上限のメリットを実感し難い側面もあったかもしれませんが。今回の法改正では「健保組合の規約により、従前の標準報酬月額」とすることも可能となりました。 今後、健保組合によっては、従前の標準報酬月額を採用するケースが増えてくると推測されます。 また被保険者からの申請による任意継続喪失が可能となりました。実務上は2年以内には任意で脱退出来ないという定めではあったものの保険料未納の場合には、強制喪失となっており、実態との不一致な面もありました。今後はより柔軟に資格喪失が出来る事になりました。 背景としては、健保組合側は任意継続制度自体の廃止を要望していた様です。いくつかの要望は、国保等へ与える影響が大きく改正には至りませんでした。要望の内、国保への影響が少ないものが採用された内容となっております。 ただ今後も健保組合の財政難と、市区町村の財政難とのせめぎ合いは続き、任意継続制度自体の存続はどうなるか分かりません。

 

令和4年10月1日~

 

(3)育児休業中の保険料の免除要件の見直し

(健康保険法、船員保険法、厚生年金保険法 等)

 

短期の育児休業の取得に対応して、月内に2週間以上の育児休業を取得した場合には当該月の保険料を免除するとともに、賞与に係る保険料については1月を超える育児休業を取得している場合に限り、免除の対象となりました。

 

ポイント

現行法では、月末の1日のみ育児休業を取得すると、その月の給与や賞与に係る健康(介護)保険料や厚生年金保険料が免除となります。法律の定めが「免除期間は、育児休業を開始した日から、終了した日の翌日が含まれる月の前月までの期間」と規定されており、例えば以下の通りとなります。

 

(例)6/30の1日を育児休業取得・・・>6月分の社保料が免除

 

育児休業を開始した日(6/30)から、終了した日の翌日(7/1)が含まれる前月(6月)まで

 

※6月支給の賞与があれば、賞与に係る社保料も免除となります。

 

本制度が、社保料軽減の目的で利用されるケースが見受けられ、かねてから問題となっており、偶然なのか定かではありませんが、厚生労働省によると賞与支給月に育児休業社会保険料免除が申請されている事が多いという調査結果もあった様です。 今回の改正では賞与に関しては、1カ月を超える育児休業を取得している場合に限り社保料免除が認められる事となりました。月末の1日のみ育児休業を取得すれば免除扱いになるという事に関しては、本改正後も変わり有りませんが、追加で月末を含まない2週間以上の育児休業取得者も免除対象になると、範囲が拡大されました。

 

人事担当者としては、給与計算の際の社保料免除の考え方がこれまでと異なる事となりますので、令和4年10月1日以降の給与計算では注意する必要があります。

 

令和4年10月1日から令和5年3月1日までの間において政令で定める日

 

(4)後期高齢者医療における窓口負担割合の見直し

(高齢者の医療の確保に関する法律)

 

後期高齢者医療の被保険者のうち、現役並み所得者以外の被保険者であって、一定所得以上(※)であるものについて、窓口負担割合を2割とする。

 

※課税所得が28万円以上かつ年収200万円以上(単身世帯の場合。複数世帯の場合は後期高齢者の年収合計が320万円以上)。政令で規定。 ※長期頻回受診患者等への配慮措置として、外来受診において、施行後3年間、1ヶ月の負担増を最大でも3,000円とする措置については、政令で規定。

 

ポイント

現行法では、一般及び低所得者層が1割負担、現役並所得者が3割負担と、「2割」負担は定められておりませんでした。2022年にかけて、団塊の世代が75歳以上の高齢者となり、現役世代の負担が大きく上昇することが想定される中で、現役世代の負担上昇を抑えながら、全ての世代が安心できる社会保障制度を構築する事を目的に、75歳以上の後期高齢者の内、一定額以上の所得者へは負担をお願いする内容となっています。未だ施行日が定まっておりませんが、人生100年時代と言われつつあり、高齢者にも働き続けてもらったり、医療費負担の増額をお願いしたりと、高齢者層が全人口の中で占める割合が高まる事と連動して、高年齢者に関する法改正が多い印象です。

 

その他も以下の改正が行われました。
  • 保健事業における健診情報等の活用促進 (健康保険法、船員保険法、国民健康保険法、高齢者の医療の確保に関する法律 等)
  • 子どもに係る国民健康保険料等の均等割額の減額措置の導入 (国民健康保険法、地方税法)
  • 国民健康保険の財政安定化基金を、都道府県が国民健康保険事業費納付金の著しい上昇抑制等のために充てることを可能に (国民健康保険法)
  • 都道府県国民健康保険運営方針について、保険料の水準の平準化や財政の均衡に関して記載事項に位置付ける (国民健康保険法)
  • 医療扶助においてオンライン資格確認の導入 (生活保護法、社会保険診療報酬支払基金法、地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律)

 

人事担当者の実務に直結するものから、徐々に影響が出るもの等、多岐に渡る健康保険法関連の改正となっております。 それぞれの改正の背景を調べてみますと、今回は改正されなかったものの、今後の予想される改正などの道筋が見えたり、現在置かれている状況が窺がえたりと、現状には様々な問題があり、制度改正は今後も頻繁にあるのでは無いかと推測します。 本コラムが少しでもお役に立てば幸いです。

 

参考文献:厚生労働省資料

 

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(執筆者:緒方)

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