お役立ちコラム
外国人技能実習生について ~後編~
最近ニュースでちらほら聞くようになってきた「外国人技能実習生」を皆様ご存じでしょうか?今回は技能実習生について2回に分けてご説明していきたいと思います。前編では沿革から技能実習法の概要までお伝えしました。今回の後編では研修と技能実習の違い、技能実習制度の現状及び問題点についてお伝えします。
1.研修と技能実習の違い
一般的に研修及び技能実習とは、職業上必要な知識や技能を高めるために一定期間教育することをいい、講義形式や実務実習と伴う実習形式など、その方法は多種多様です。
入管法上もこれらに対応するべく在留資格として研修や実習の内容の違いから在留資格「研修」「技能実習」の2つに区分し、原則として講義形式のみを在留資格「研修」とし、実務研修を伴う実習形式を在留資格「技能実習」としています。
入管法上では「研修」は本邦の公私の機関により受け入れられて行う技能、技術若しくは知識の修得をする活動と定義されており、「技能実習」は雇用契約に基づいて業務に従事する活動を定義されています。
本邦の公私の機関が研修生を受け入れる場合、原則として実務研修を伴わない「非実務研修」の受け入れとなるが、ここで問題となるのが、どこまでが非実務研修であり、どこからが実務研修に該当するのか、その境界が定かでないことです。
この点について、上陸基準省令では、実務研修について定義されており「商品の生産もしくは販売をする業務又は対価を得て役務の提供を行う業務に従事することにより技能等を修得する研修」と定義しています。すなわち、在留資格「研修」の非実務研修とは、研修の形式が座学などの講義形式か否かにより決まるものではなく、研修生の行う作業が企業等の商品の生産もしくは販売をする業務又は優勝の役務提供の過程の一部を形成するか否かにより決定されます。
在留資格「研修」の活動は、「本邦の公私の機関により受け入れられて行う技能、技術又は知識の修得をする活動」であり、労働に従事し賃金を得る活動ではないため、雇用契約の締結は不要です。
一方、在留資格「技能実習」の活動は、「本邦の公私の機関との雇用契約に基づく活動」であり、技能実習生の受け入れにあたっては、雇用契約の締結が必要となります。
技能実習生は日本の法令、職場慣行等を理解していないことが多く、入国後に労働条件等についての理解の行き違いなどから職場でのトラブルが発生することがあり、また、いったんトラブルが発生すると言語や文化、習慣等の違いからその解決が容易ではありません。そうしたトラブルを未然に防止するためには、実習実施機関と技能実習生との間で労働契約上の権利・義務関係を明確にしておくことが極めて重要になります。
実務上は技能実習生が入国する前に、日本語のみならず母国語を併記した雇用契約書や労働条件通知書の書面を作成し、技能実習生本人と労働契約を締結しなければなりません。
労働基準法その他労働法令の適用については、研修生及び技能実習生の「労働者性」を判断することになります。研修生については、一般的に労働者性が否定されていますが、これは研修の目的が労務提供ではなく、かつ、賃金の支払いがないことを基本としています。
しかし、入管法上、雇用契約が締結されていなくても、労働者保護を目的とする労働関係法令の趣旨から実質的に労働者性がないことを否定されれば労働基準法が適用されることになります。雇用契約の締結を前提とする技能実習生は、労働者であることを基本とし、使用者と実習実施機関との雇用関係の下で報酬を受けます。そのため労働者性の有無を問うことなく労働基準法上の労働者に該当し、通常の労働者と同様に労働関係法令についても適用されます。
ただし、技能実習実施期間における実習の前に、監理団体において一定時間以上の講習の実施が義務付けられています。この講習期間中は、原則として技能実習生と実習実施機関との間に雇用関係は生じていないため、労働関係法令は適用されません。
受け入れ機関と雇用契約を締結しない研修生は、労災保険が適用されないため、業務上の労働災害等により傷害を受けても保障されません。そのため、研修生が研修中に負傷、疾病等に罹患した場合に備え、民間保険の加入等の保障措置を講じていることが求められています。
雇用契約の締結を前提とする技能実習では、実習実施機関において労災保険、雇用保険、健康保険、厚生年金保険に加入して技能実習生の労働災害や傷病等に備えなければなりません。実習実施機関が健康保険及び厚生年金保険の適用事業所に該当しない場合は、国民健康保険及び国民年金の制度に加入することになります。また、監理団体において義務付けられている講習の期間中には労働関係法令が適用されないため、民間保険が利用されています。
報酬を受ける活動は就労活動であり、在留資格「研修」の在留資格に該当しません。そのため、外国人研修生は、技術、技能又は知識を修得する活動を行うことにより報酬を受けることはできません。
外国人研修制度で研修生を受け入れる場合、多くの場合は「研修手当」として一定の金銭が支払われます。この研修手当は、本邦における外国人研修生の生活費等の実費を補てんするために支払われるものです。
これに対し雇用契約に基づく技能実習は、労働の対価として賃金を得ることになります。賃金に関しては、労働関係法令の中でも労働基準法及び最低賃金法に留意することはもとより、上陸基準法令省令において「日本人が従事する場合の報酬と同等額以上」と規定され、最低賃金を支払えばよいというものではありません。
支給名目が研修手当であっても外国人研究生が行った一定の役務に対して支払われた金銭は、原則として労働の対価としての報酬に該当します。労働の対価として報酬に該当するか否かは、研修手当の額、支払状況などから総合的に判断され、社会通念上妥当な範囲を超える場合には、研修手当とはみなされずに報酬と判断されることになります。
2.技能実習制度の現状
日本に在留する技能実習生は2017年6月末時点で約25万人、ここ数年は毎年約2万5千~3万5千人ずつ増えています。受け入れる職種別では16年末時点で機械・金属、建設、食品製造の順で多くなっています。
(図1:研修生・技能実習生の在留状況 厚生労働省ホームページより)
(図2:技能実習生受け入れ国 厚生労働省ホームページより)
(図3:技能実習生の職種 厚生労働省ホームページより)
3.外国人技能実習制度の問題
外国人技能実習生の失踪は増加傾向にあり、2012年には2,000人程度でしたが2017年には7,000人を超えました(法務省入国管理局報道発表資料参照)。失踪が相次ぐ根底には「高収入」だけを目的とする技能実習生と「低賃金労働力」を目的とする日本の受け入れ会社とのミスマッチがあり、失踪を防止するよう対策は行っていますが今後も発生すると思われます。
4.まとめ
人手不足の状況が続いている日本では、今後はより一層外国人技能実習生の力を借りることが必要な状況になることが予想されます。日本を働き先として選んでもらうためにも、本来の制度の目的である「技能の移転を通じて、実習生の母国の発展に寄与する」という目的を果たせるよう、受け入れ側として体制を整えることが求められています。
参考文献
外国人技能実習生受入れガイド(岸本和博 著) 明石書店
日本の外国人留学生・労働者と雇用問題(守屋 貴司著) 晃洋書房
外国人労働者受け入れと日本社会(上林 千恵子著) 東京大学出版会
外国人研修・技能実習生支援マニュアル(佐野 誠 秋山 周二 著) 日本加除出版
関連ページ:
執筆者:中谷
(c)123RF
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