お役立ちコラム

不注意で紛失した鍵の代金は賃金から控除できますか?

数店舗の飲食店を経営しています。先日、その1店舗の従業員が、酔って店の鍵を紛失しました。盗難等の犯罪に対応するため、その店の鍵を交換することにしました。
その際の交換費用は、紛失した従業員の給与から天引きをしたいと考えていますが、この場合、認められますか?

労働基準法では、賃金について「その全額を支払わなければならない」と定めています。

よって、社会保険や所得税などの法定控除のほか、親睦会費、社宅費、組合費など「賃金の控除協定」で定めた以外のものを賃金から控除することは認めていません。

ですから、使用者が労働者に債権を有しているからの理由で、一方的に賃金の一部を相殺して支払いしないことは許されません。

これについて、最高裁も「労働者の賃金債権に対しては、使用者は、使用者の労働者に対して有する債権をもって相殺することは許さない・・・。このことは、その債権が不法行為を原因としたものであっても変わりはない」としています(日本勧業経済会事件 最高裁 昭36.5.31)。

しかし、実際に故意又は過失によって権利の侵害を受けた場合には、現実に生じた損害について賠償を請求することは禁止されていませんから、会社が、賃金を全額支払いした上で、別途、鍵の交換費用を請求しても問題はありません。

ただし、その場合であっても、損害を従業員だけに負担させるのは公平に反しますので、従業員の過失の大小、会社の管理責任上の過失など、諸般の事情を考慮して損害額を決めるべきでしょう。

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