お役立ちコラム
賢く節税!個人事業主が知っておくべき、経費にできるもの・できないもの
【はじめに】
今回の経理・会計・税務BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)のコラムは、賢く節税!個人事業主が知っておくべき、経費にできるもの・できないものについてです。
個人事業主にとって、確定申告は避けて通れない業務です。特に、日々の売上からどれだけの費用を差し引けるか、つまり「経費」の範囲を正しく理解しておくことは、税金を計算する上で最も重要なポイントの一つです。経費を漏れなく計上できれば、課税対象となる所得が減り、結果として納める税金(所得税や住民税)が抑えられます。ただ、「これは経費になるのか?」と判断に迷う出費も少なくありません。
ここでは、個人事業主が知っておくべき経費の基本原則と、判断に迷いやすい具体例について詳しく解説します。
1.経費の基本原則:「事業に必要不可欠な支出」であること
税法上の「経費」として認められるかどうかの大原則は、その支出が「事業を行う上で必要なもの」であるかどうかです。
【判断のポイント】
- 事業関連性:その支出が売上を得るために直接的・間接的に役立っているか?
- 合理性 :その支出の金額や内容が、事業規模や社会通念上、常識的な範囲であるか?
- 証明可能性:領収書や請求書など、支出の事実を証明できる書類が残っているか?
極端な話、事業に関連しないプライベートな支出(生活費、趣味の費用など)は一切経費にできません。
2.判断に迷いやすい項目とその取り扱い
個人事業主特有の働き方から、「事業用」と「プライベート用(家事用)」の区別が曖昧になりがちな費用があります。これらの費用は「家事関連費」と呼ばれ、経費にするためには特別な取り扱いが必要です。
(1)自宅兼事務所の場合の「家事按分」
自宅の一部を仕事場として利用している個人事業主は非常に多いです。
この場合、家賃や水道光熱費、インターネット代といった費用を「家事按分」という方法で経費にできます。
| 費用項目 | 按分方法(合理的な基準の例) | 注意点 |
| 家賃 | 床面積で按分するのが一般的。事業用の部屋の面積を全体の床面積で割った割合を使用します。 | 持ち家の場合は「減価償却費」として計上します。 |
| 水道光熱費 | 使用時間で按分するのが一般的。仕事をしている時間と生活時間を比較し、事業用の割合を算出します。 | 電気代はPCや照明など事業での利用が多い場合、高めに按分することもあります。 |
| 通信費 | 使用割合で按分。携帯電話やインターネット回線で、事業での通話・通信が全体のどれくらいの割合を占めるかを算出します。 | プライベートと事業用で回線を分けるのが最も明確です。 |
【重要】
按分する割合は、税務署に対して合理的に説明できる必要があります。「なんとなく50%」ではなく、明確な根拠を持たせましょう。
(2)交通費・旅費
- 経費になるもの
業務に関する打ち合わせ、仕入れ、研修、顧客訪問などのための電車代、バス代、タクシー代、高速道路料金、出張時の宿泊費。 - 経費にならないもの
プライベートな外出時の交通費。
【注意】
交通費が高額になる出張では、新幹線代や飛行機代の領収書に加えて、出張報告書や旅費精算書を作成し、目的(誰と、どこで、何をしたか)を明確にしておくと、税務調査で説明を求められた際にスムーズです。
(3)会食費・贈答品代
- 交際費
顧客や仕入先など事業に関係する者への接待、供応、慰安、贈答、その他これらに類する行為のための支出です。個人事業主の場合、原則として事業に必要なものは全額経費にできます。
ただし、税務署が「豪華すぎる」「私的な飲食だ」と判断するような高額な支出は認められにくい傾向にあります。 - 会議費
事業に関する打ち合わせの際の飲食代。
【重要】
飲食代の領収書には、「誰と」「どこで」「何のために」飲食したかを必ずメモしておきましょう。
3.経費に「できない」と明確に決まっているもの
どんなに事業に一生懸命取り組んでいても、支出の性質上、経費として認められないものがあります。
(1)所得税・住民税
税金のうち、所得税や住民税は、個人の所得に対して課される税金であり、経費にはできません。
ただし、事業に関する消費税、事業税、固定資産税などは経費として処理が可能です。
(2)事業主自身や家族の生活費・保険料
国民健康保険料、国民年金保険料は「社会保険料控除」として所得から差し引く項目であり、経費(費用)としては計上できません。また事業主自身の給料(事業主貸)についても個人事業主と事業は一体であるため、事業主自身に「給料」という概念はありません。生活費などを引き出した場合は「事業主貸」という勘定科目で処理し、経費にはなりません。
(3)罰金・過料
事業活動中に生じた交通違反の罰金や、税金の申告遅延による延滞税などは、事業を円滑に行うための支出ではないため、経費にはできません。
4.経費を正しく計上するための実践的なヒント
最後に、経費処理を円滑に進め、安心して確定申告を迎えるための実践的なアドバイスです。
- 事業用と個人用の口座・クレジットカードを分ける
これが最も基本的な節税対策であり、会計処理の効率化に直結します。公私混同を避けることで、経費の識別が格段に楽になります。 - 領収書・レシートは必ず保管
すべての経費の証拠となります。月ごとに分類するか、専用のファイルに時系列で保管しましょう。電子帳簿保存法の要件を満たせば、スマホ撮影したデータで保存することも可能です。 - こまめな記帳を習慣化
会計ソフトを活用し、最低でも週に一度は記帳を行いましょう。まとめて処理しようとすると、何の支出だったか思い出せず、経費計上を忘れてしまうリスクが高まります。
【おわりに】
経費の判断は「グレーゾーン」が多く、迷うことも当然あります。しかし、基本原則は「事業に必要か?」です。
もし判断に迷った場合は、ためらわずに税理士や税務署に相談し、適切な処理を行うことが、健全な事業運営と賢い節税の秘訣となります。
この度は経理・会計・税務BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)のコラムをお読みいただきありがとうございます。
次回の経理・会計・税務コラムでまたお会いしましょう。
(執筆者:北之園)
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