お役立ちコラム
退職所得課税の見直しについて
はじめに
令和5年4月岸田総理大臣を議長とする第16回新しい資本主義実現会議が開催され、その中で退職所得課税制度の見直しも議論がされました。
退職金は、長年の勤労に対する報償的給与として一時に支払われるものであることなどから、退職所得控除を設けたり、他の所得と分離して課税されるなど、税負担が軽くなるよう配慮されています。
この退職所得課税について何が問題視されどこを見直そうと議論されたのでしょうか。
現行の制度を確認しつつ何を議論していたのかについて確認していこうと思います。

これまでの退職所得課税
1.3つの配慮
最初に退職所得課税については税負担が軽くなるように配慮がされていると記載しました。
では具体的にどのような配慮がなされているのでしょうか。
それは下記の3点となります。退職所得控除、1/2課税、そして分離課税です。
退職所得課税について、支払われた退職金がそのまま課税されるわけではありません。
計算上まずは支われた退職金から退職所得控除額を控除することとなります。
具体的には下記の表の通りの金額となりますが、勤続年数が20年を超えると控除額も増加します。
|
勤続年数 |
退職所得控除額 |
|
2年以下 |
80万円 |
|
3~20年以下 |
40万円×勤続年数 |
|
20年超 |
800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
支払われた退職金から➀で計算した退職所得控除額を控除した後の数字について、さらに1/2した金額が課税退職所得となります。
仮に退職所得控除額を控除した後の数字が1,000万円であったとしても、課税されるのは1/2の500万円となるわけです。
計算式をまとめると以下の通りとなります。
所得は10種類存在し、基本的にそれら全てを合算した所得に対して税率を掛けて税額を算出します。
日本では超過累進税率が採用されており、所得が高ければ高いほど高い税率がかかるようになっています。
一番低い税率は5%ですが課税される所得の増加とともに徐々に上がっていき最終的に課税される所得が4,000万円超で税率は45%という具合になっていきます。
ここで退職所得については他の所得とは合算しない分離課税が採用されています。
退職金は高額になることが想定されるため、他の所得と合算して計算すると税額が高くなってしまうことに対する配慮といえます。
退職所得課税の見直し議論
1.議論の内容
令和5年4月の新しい資本主義実現会議で退職所得課税制度の見直しについても議論がありました。
それでは退職所得課税制度の何が問題視されたのでしょうか。
答えは➀で記載した退職所得控除となります。
退職所得控除の性質として勤続年数が増えると、具体的には20年を超えると控除額が増えることは前述したとおりです。
すなわち退職所得課税の観点からは同一の会社に長く勤めれば勤めるほど有利になるという仕組みになっています。
これが成長分野への労働移動の円滑化の妨げになっているとされているのです。
多様化する働き方、産業構造の大変革、そして、生産年齢人口がこれから大幅に減少することを考えると、一人一人が自らキャリアを選択でき、能力を向上させながら労働移動が円滑にできる労働市場への改革は、日本経済の成長にとって極めて重要と考えているのです。
2.見直しの影響
見直しの内容について具体的に決まっているわけではありませんのであくまで仮定の話となりますが、少なくとも勤続年数が長ければ長いほど有利になるという現行の仕組みは変わるかと思われます。
結果として従来よりも税額が増える可能性も考えられます。
また、私的年金制度として一時期話題になった個人型確定拠出年金(iDeCo)につきましても受取を一時金受取りとする場合、それは退職所得として税額を計算することとなります。
そのたiDeCoの受取時の税計算にも影響が出る可能性があります。自分の会社には退職金制度が無いから関係ないというわけでは必ずしもないという事です。
おわりに
今回は退職所得課税制度の見直しについてまとめさせて頂きました。
現時点で見直しについて具体的に決まったわけではありませんが、見直しの流れはあります。
退職金は老後の生活の原資となるものですから今後の見直しの行方にはアンテナを張っておく必要があるかと思います。
執筆者:笠井
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