お役立ちコラム

AIが経理部門の仕事をどう変えるか

巷でAIが話題になって久しいですが、当社でも経理業務の効率化を図るためAIを活用する方針が先日開催された取締役会で決まりました。

経理財務担当役員である私が統括責任者に任命され、プロジェクトを進めていく立場になりますが、正直なところAIを経理業務にどのように活用していけばよいか具体的なイメージを持てずにいます。

AIをどのように経理業務に組み込んでいけば良いかヒントをもらえますでしょうか。

AIに限らず、テクノロジーを業務に組み込むには、そのテクノロジーの可能性や今後の動向、そして自社の事業・業務に対する深い理解が大切になります。

失敗のケース・・・

AIの導入で起こりがちな失敗は、漠然とした大きな問題をAIで解決しようといったケースが多いと思われます。たとえば「自社の経理業務をAIで効率化したい」といった具合です。

 大きな問題をAIで解くには課題を想像以上にブレークダウンして考えていかなければなりません。そうでないと、多額のコストが掛かったわりに、思ったほど効率化が実現できなかったということが起こり得ます。

なぜ昨今、AIが注目を集めているのか・・・

 なぜ昨今、AIが注目されているのかについて軽く触れていきたいと思います。

 AIのブームは過去に2回あり、今回が3回目のブームになりますが、その契機となったのは、トロント大学のヒントン教授らが中心となって開発した新しい機械学習の方法「ディープラーニング(深層学習)」の登場です。

 そして、このディープラーニングとIoTおよびビックデータ(つまり使えるデータが増えた)が相まって現在のブームに至っています。

 ディープラーニングを含む現在のAIの研究は、統計的アプローチにより進展してきた背景があります。

 たとえば、翻訳を考えるときに、文法構造や意味構造を考えず(これは1980年代の2回目のAIブームでの限界であった)、統計的に訳される確率の高いものを当てはめていく方法です。つまり大量のデータで学習させて統計的な”答え”を導き出すアプローチということです。

ディープラーニングは「特徴量抽出」と「ニューラルネットワークの多層化」という2点において従来型のAIとは大きく異なります。

▼特徴量抽出

ディープラーニングが登場する以前は、統計的な“答え”を導き出すに際して、どういったところに着目すべきか(特徴量抽出)を人間が特定してきました。

しかし、人間が特徴量を特定するには限界がありました (画像認識でエラー率を下げるのに各大学・研究機関が試行錯誤を重ね、ようやくコンマ何%下がる世界) 。

ディープラーニングは特徴量抽出をコンピューター自ら自動で行うことで、これまで人間が介在しなければならなかった領域に、AIが一歩踏み込む技術的な進歩を実現しました。

▼ニューラルネットワークの多層化

AIの学習は、人間の脳神経回路をまねたニューラルネットワークによる方法を使っています。

ディープラーニングが登場する以前は、その階層が3層まででした(層を重ねるほど自由度は上り、表現できる関数の種類は増えるため精度が上がるとわかっていたが、やってみるとそれが上手くいかなかった)。

そこで、ディープラーニングでは自己符号化器という「情報圧縮器」を用いることで多層のニューラルネットワークを実現することにより解の精度を飛躍的に向上させることに成功しました (ディープラーニングが“ディープ”を言われる所以) 。

 

出所:人口知能は人間を超えるか(著:松尾豊)

出所:人口知能は人間を超えるか(著:松尾豊)

AIができること・・

上記の技術的な背景を踏まえた上で、AIができることを少し考えていきたいと思います。

雑誌等の紙面では、AIは人に置き換わるかといった文脈で議論がされることが多いように思われますが、AIができることは次の3つであり、人間の作業の代替だけではなく、人間の可能性を広げるという点も着目すべき点です。

☑人間のできることを拡張・支援する。

☑人間の作業を代替する。

☑人間には不可能なことをする。

中でも、AIは「分類」・「識別」・「予測」が得意分野であり、その特徴を踏まえた上で、人間とAIをどのように共存させるかを考えていく必要があると思います。

経理業務とAI・・

 経理業務におけるAIの活用を考えたときに、経理業務は、多数の比較的ルーティーンな業務と、少数の経営判断を考慮しなければならないような難しい論点を含む業務との2つの異なる性質の業務に分けることができると思います。

前者は、少額の多数の取引で構成されているケースが多いと思われ、AIによる統計的な処理と相性が良いと思われます。

他方、後者は見積もりの等の判断を含む要素があり、形式上は同じような取引であっても、その会社の事業環境や取引の目的によって処理が異なってくる場合があるため、AIのみで正確な処理をすることはハードルが高く、人間が主でAIはそれをサポートするような位置づけで導入するアプローチが現時点では現実的なところだと思います。

ところで、会計には説明責任が求められます。機械が処理したから詳細はわからないといった論理は通用しないことからも、AIに全て任せるといった考え方ではなく、人間とAIのそれぞれの特徴を活かした共存を考えることが重要です。

現状では、AIによる会計パッケージソフトが市場に出回っていないように思われますので、ソフトウェアベンダーとの個別開発になると思いますが、その時には、業務の量的・質的な重要性、また費用対効果を念頭に、何を、どの範囲で、どうやってAIによって解決していくかを十分に検討する姿勢が重要になると思います。

AIを上手く活用できれば、経理担当者は、日々の膨大なルーティーン作業から解放され、会計のリスクが高い、より重要な論点に注力できるようになります。

そして、それを関係者に適切に説明できる力が、今以上に経理担当者に求められることになると思います。

<参考文献等>

人口知能は人間を超えるか(著:松尾豊)

AI経営で会社は甦る(著:冨山和彦)

BCGが読む経営の論点2018(著:ボストンコンサルディンググループ)

執筆者:小坂

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